NPO法人緑の風ヘルスサポートジャパン(通称NPO緑の風)TEL050-1417-5964 は、自らの自然治癒力を大切にする統合医療の考え方の啓発・普及に努めるとともに、メタボリックシンドロームやがんなどの生活習慣病の発症予防・未病改善や再発・転移予防に関する様々な活動(セミナー活動、健康相談、がん体験者会の主宰、サプリメントのモニター調査など)を展開しています。
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予防医学と未病
 
目次
抗不安薬依存 深刻に(1)
 抗不安薬や睡眠薬を長期に処方された患者が、薬物依存に陥り、薬を減らしたりやめたりする際の離脱症状に苦しむケースが問題になっている。日本は欧米に比べ、抗不安薬や睡眠薬の処方が際立って多い。漫然とした処方をやめようとの動きも始まったが、薬物偏重の背景には、患者の訴えをきちんと聞くことのできない日本の精神科医療の問題がある。

 ストレスによる過呼吸などの症状から、不安障害と診断された近畿地方の50歳代の会社員男性。医師に抗不安薬を処方され、5年前に飲み始めた。だが、徐々に薬の効果は薄れ、不安や不眠が増し、昨年には会社を休職せざるを得なくなった。
 インターネットなどで自分で調べた情報から「症状の悪化は長期服薬のせいではないか」と疑い、入院して減薬に取り組んだが、途中からひどい頭痛に襲われた。「薬を急にやめた影響では」と医師に尋ねても、医師は「原因は不明」との答え。薬をやめて1年たった今も、頭痛がひどく復職できない。「いつまで続くのか。本当につらい」と話す。
 男性が飲んでいた薬は、ベンゾジアゼピン系(ベンゾ系)薬剤《解説》といい、抗不安薬や睡眠薬として広く用いられている。だがこの薬は、長期に使うと抑うつや注意力低下などの副作用が現れやすい。さらに、用量を守って使っていても薬物依存(常用量依存)に陥り、薬を急に減らしたりやめたりすると、不安の増大やパニック発作、頭痛、筋硬直、不眠などの離脱症状が表れることがある。
 欧米では、治療指針で処方機関を4週間以内とするなど、早くから対策が講じられた。英国ではベンゾ系薬剤をやめるための専門施設もある。
 ところが日本では、多くの精神科医や内科医が「飲み続けても安全」と、漫然と使い続けてきた。国連の国際麻薬統制委員会の2010年報告では、日本はベンゾ系睡眠薬の使用量が突出して多く、同一人口当たりの使用量は米国の約6倍だ。10年以上の服用者も多く、常用量依存患者は相当数に上ると見られる。

 離脱症状を抑えながら、段階的に薬をやめる手引書として世界中で使われているのが、インターネットで無料で公開されている「アシュトンマニュアル」《解説》だ。日本語版は今年8月、離脱症状に苦しんだ経験がある近畿地方の田中涼さん(41)らが、協力医の監修を得て、完成させ、公開から2か月間のダウンロード数は約1万7000件に上った。
 田中さんは「離脱症状の苦しさや持続時間について不勉強な医師が多い。そもそも薬物依存に陥るような処方をしてはいけない。医療界は早急に対策を講じる必要がある」と話す。
 専門学会も重い腰を上げた。日本うつ病学会は、7月に公表したうつ病治療指針で、ベンゾ系薬剤の長期処方について「乱用や依存形成に注意し、安易な長期処方は避けることが望ましい」などと戒める記述を繰り返した。神庭重信・同学会理事長(九大精神科神経科教授)は「日本のベンゾ系薬剤の使用状況は明らかに過剰だ。来年の治療指針改訂では、睡眠薬の使い方について踏み込んだ記述をしたい」と語る。
 医療現場での取り組みも一部で始まった。処方薬依存の紹介患者が急増している肥前精神医療センター(佐賀県)では、専門外来で患者の減薬治療と心理的サポートを始めている。武藤岳夫医師は「減薬の知識を持った医師を早急に増やす必要がある」と話す。
 厚生労働省の責任も重大だ。処方期間の制限に加え、アルコール依存の専門病院などの力を生かし、処方薬依存患者の支援体制を早急に築くことが求められる。

《解説》
ベンゾジアゼピン系薬剤 抗不安薬や睡眠薬の多くはベンゾジアゼピンと呼ばれる化学物質でできている。大量に飲んでも直接命にかかわらないため「安全な薬」とされるが、長期に服用すると効き目が落ちる耐性が生じることや、薬物依存に至る例が多いことが以前から知られていた。ベンゾジアゼピン系以外の抗不安薬・睡眠薬も、同様の作用を持つものがある。

  <主なベンゾジアゼピン系薬剤>
    ソラナックス、コンスタン、レキソタン、マイスタン、リボトリール、ランドセン、
    セルシン、ホリゾン、ユーロジン、ロヒプノール、ワイパックス、レスミット、
    ベンザリン、ドラール、ハルシオン、デパス(チエノジアゼピン系)
  <類似作用を持つ非ベンゾジアゼピン系薬剤>
    マイスリー、アモバン

アシュトンマニュアル 英国ニューカスル大神経科学研究所のヘザー・アシュトン教授がベンゾジアゼピン系薬剤の離脱専門クリニックで多くの患者を減薬、断薬させた経験をもとに、段階的な減薬方などをまとめた手引書。日本語版を含む10カ国語に翻訳され、インターネット(http://www.benzo.org.uk/manual/index.htm)で公開されている。

[読売新聞 2012年11月13日号記事]

アシュトンマニュアル日本語版
知りたい放射能/新規制値(1)より精密な検査が必要
 4月から食品中の放射性物質に、新規制値が適用される予定だ。生活への影響や課題を探る。

 「新規制値レベルを測定できるのか検査機器メーカーと協議中」(群馬県)、「機器の台数を増やし、測定の精度を上げる」(栃木県)−。

 新規制値をにらみ、自治体が検査見直しに動き出している。新規制値は、暫定規制値の4分の1〜20分の1に下がる。そのため、より精密な測定が必要だからだ。
 食品中の放射性セシウムを測るには、自然放射線が影響しないよう分厚い金属性の箱に細かく切った食材を入れて測る検査機器を使う。ガイガーカウンターを食品の表面にあてるだけでは測れない。
 厚生労働省によると、全国の自治体が保有する検査機器の台数(計画中も含む)は昨年末で、精度の高い検査機器「ゲルマニウム半導体検出器」が216台、管理が手軽な「簡易測定器」が227台。政府の原子力災害対策本部から検査の強化を要請されている17都県に限れば、それぞれ63台と88台がすでに稼働中だ。
 どちらも測定時間を延長したり、測る食材量を増やすなどして、低い濃度に対応した検査にする必要がある。検査に手間どれば、測定できる食品数が減り、かえって汚染を見逃す可能性が高まるのではと心配する声も出てくる。
 新規制値に合わせて、同省は簡易測定器の条件案を示した。1キログラムあたり25ベクレルの濃度を測れる精度が必要で、一般食品が規制値を超えていないことを確認する線引き検査にのみ使う。しかし条件を満たせない機器もあり、同省では「新規制値に合った機器を増やし、検査数を減らさないようにしたい」とする。
 検査品目の偏りも気になる。同省がまとめた1月末までの10万738点の検査のうち、牛肉が6万5964点を占める。自治体ごとのばらつきもあり、シイタケの検査数は福島県は484点だが、岩手は25点、群馬は42点。漁業の復興に合わせ、水産物の調査を充実させる必要もある。
 さらに、新規制値レベルでの検査は、測定利にばらつきが出やすく、自然放射線を食品の値と見誤るなど、習熟していないと間違う場合もある。
 環境リスクに詳しい東大名誉教授の安井至さんは「限りある検査機器や人手をどの品目にどう割り当てるかが、今以上に問われる。汚染の広がり度合いなどから総合的に判断した検査方針を国民に示し、体への影響と合わせて丁寧に説明するべきだ」と話している。
高血圧 おいしく防ぐ
 塩分の多い食事(高塩食)を好む日本人の食習慣は、国を滅ぼすと言っても過言ではない。
 日本人は長寿になった一方、莫大な医療費と介護費を使っている。疾患には、原因が不明なものと、全てではないが分かっているものと二通りある。原因が不明なものは疾患を治療するしかないが、分かったものは、原因に配慮すれば予防できることも多い。
 わが国で一番多い疾患は高血圧で、推定患者は約4000万人。病状が進んで、心筋梗塞や脳卒中になれば、救急医療が必要となる。治療の進歩で多くは救命できるが、麻痺などの障害を残すことが多い。
 一度、事が起これば薬や食事の管理が必要になるうえ、家族や介護制度の世話にもなり、障害を持ちながら生きることになる。これが、平均寿命が長くても健康寿命とずれがある大きな要因である。高齢化に加え、寝たきりの人が増えれば、働き手の減少により国力の弱体化にもつながる。
 この重大な問題を引き起こす国民病、高血圧の主な原因は塩である。日本人の食塩摂取量は1人1日平均11gと世界で最も多い。また高塩食は胃がんの原因の一つでもある。
 2010年に医学誌に発表された試算では、米国で1日3g減塩すると年間の全死亡数が4万4000〜9万9000人減少し、100億〜240億ドルの医療費も削減できるという。米国より高塩食で高血圧の多い日本ではさらに大きな効果が出るのではないか。
 減塩先進国の英国は加工食品の減塩を義務づけた。日本高血圧学会は1日6グラム未満を推奨している。減塩は安価で達成しやすい目標で、やらない手はない。
 しかし、現実は甘くない。高塩食は子供の頃からの習慣であり、自覚がない。食塩摂取は家庭での調味料より、加工食品や外食からの方が多く、個人での取り組みには限界がある。塩が少ないとおいしくないとの先入観もある。
 でも、禁欲的に我慢するのではなく、楽しく、おいしくスマートに食塩やカロリーを削ぎ落とし、高血圧、糖尿病や脂質異常症を予防して、膨大な医療費を抑えるのは小気味いい。
 子供の食育、食品や外食産業の減塩への協力、成熟社会ならではの「量より質」の食生活の普及が大事だ。世界一の高塩食社会の改革は大きなビジネスチャンスにもなるはずだ。
 そのヒントになる世界で初めての「減塩サミット」が5月26、27日に、世界高血圧デーに合わせて広島県呉市で開催される。日本高血圧学会と、「こだわりのヘルシーグルメダイエットレストランin呉&広島」プロジェクトの共催だ。
 減塩サミットは「子供たちとこの国の未来のために、市民と医師が本気で減塩について考える ソルト・コンシャス(=塩を意識する)をモットーに、シンポジウムや研究発表などの学習・研究的要素と、減塩屋台食べ歩きなどの体験型イベントを併せ持つ。
 このサミットから楽しくおいしい減塩を提案し、日本の未来を明るくしたい。

[読売新聞 2012年5月18日 記事]
薬、貿易赤字「陰の主役」
 医薬品の輸入が拡大している。新薬開発で米欧の後手に回り、海外から高額な抗がん剤などを買う必要があるためだ。輸入が輸出を上回った額は(輸入超過額)は、2011年には10年前の5倍の1兆3660億円で、日本の貿易赤字(2.5兆円)の隠れた主役になっている。40兆円規模に膨らんだ日本の医療費を支える税金と保険料は、海外に流れ出ているのが現状だ。

技術が流出

 慢性骨髄性白血病治療薬のグリベッグ、乳がんのハーセプチン――。がんだけを狙い撃ちにする分子標的薬は2000年代に急速に広がったが、患者1人当たりの薬剤費が月数10万円程度と高額なものが多い。ほとんどが海外メーカーの開発で、医薬が進歩すればするほど、輸入が膨らむ構図になっている。
 日本で画期的な新薬が生まれにくいのは、米欧で開発の担い手になっているベンチャー企業が資金や人材の不足で育ちにくいことが大きい。大学の研究室と企業との橋渡し役の不在もあり、有望な技術の海外流出をみすみす許してきた。
 大規模な臨床試験ができる施設が限られているうえ、薬の審査・承認に時間がかかり過ぎるとの指摘もある。研究開発資金を回収しにくい薬価制度や法人税率の高さなどが投資の妨げになり、製薬会社の「日本離れ」を招いた面も見逃せない。
 「中国や韓国に追いつかれるのも時間の問題だ。武田薬品工業の長谷川閑史社長は10日、首相官邸で開かれた国家戦略会議で危機感をあらわにした。大規模なバイオポリスを建設して世界中から研究者を集めるシンガポールを筆頭に、アジア各国は国を挙げて新薬の開発に取り組む。
 「財政が厳しいのなら安い医薬品という選択肢になぜ目を向けないのか」(インド政府高官)。医薬産業の育成に力を入れるインドは、日本との経済連携協定を機に後発薬などの売り込みを加速させる。先端の医薬品以外でも、海外勢の日本市場への参入はじわり広がる。

縦割りの壁

 政府は日本再生戦略の柱の一つに医薬品の開発支援を据える。だが、政策の目玉として当初予定していた「創薬支援機構」の設立はは事実上見送られ、既存施設の連携強化にとどまることになった。
 古川元久国家戦略相は「箱物に時間をかけるより、今の仕組みでやれることからやっていく」と説明する。
 機構設立の旗振り役だった政府の医療イノベーション推進室の中村祐輔室長が昨年末、省庁間の調整の難しさなどを理由に退任した経緯もある。厚生労働、経済産業、文部科学という霞が関の縦割りを乗り越え、基礎研究から薬の承認までを一貫して支援していく発想も必要になる。


高齢化進行で輸入拡大も

 医薬品の輸入は日本の国際収支にも影響を及ぼしつつある。通関ベースで31年ぶりとなった2011年の貿易赤字は東日本大震災という特殊事情が最大の要因。ただ医薬品の輸入増は高齢化という構造問題が背景にあるだけに、震災の影響が払拭できたとしても、貿易収支の赤字圧力になり続ける公算が大きい。
 11年の約2.5兆円の貿易赤字は輸出が前年比2.7%減る一方、輸入が12.1%増えたことが原因だ。部品供給網の寸断で自動車の輸出が1割減り、原発の停止で火力発電用の液化天然ガス(LNG)の輸入が4割近くも急増。製造設備の被災でプラスチックも輸入が増えた。
 内閣府のリポートでは、LNGとプラスチックの輸入、自動車の輸出がそれぞれ10年と同額だったと仮定すると、11年の貿易赤字は約1000億円まで縮小。「震災という特殊要因が大きく影響した」(担当者)。
 ただ医薬品の輸入は5年間で約7300億円も増えた。抗がん剤など高額の薬を中心に米国やドイツなどからの輸入に頼っているためだ。輸出は3700億円前後で5年前とさほど変わっていない。
 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、65歳以上の高齢者は10年に約2948万人から20年には約3612万人に達する見込み。衣料品産業の構造が変わらなければ、薬を多く使う高齢者が増えるとともに輸入も増え続ける公算が大きい。
 燃料輸入の高止まりで貿易赤字が続いても年間10兆円を超す海外からの配当といった所得収支の黒字が穴埋めし、経常収支は当面黒字を維持する見方が多い。ただ医薬品という伏兵が、日本を経常赤字へじわじわと押し込む可能性がある。
よくかんで健やかに
 かむことは健康によいとされる。最近の研究で、ストレス解消や肥満の防止、記憶力の向上などに効果があるとわかってきた。軟らかい食品が増えてかむ回数は減ってきているが、食材の選び方や調理法などで対処できる。ガムを使う手もある。かむという行為を見直してみてはどうだろう。

 苦しときやつらいとき、人は歯を食いしばる。かむことはストレス解消に効果があるようだ。神奈川歯科大学の小野塚実名誉教授が手掛けた興味深い実験がある。

●ストレス解消
 ネズミを毎日30分縛ってストレスを高め、発がん性物質を与えた。縛られているときに木をかじったグループはがんが発生する確率が何もしないグループの3分の1に減った。ストレスが高いと免疫機能が低下し、がんになりやすくなるとされる。かむことでストレスが解消されたためではないかという。
 こんな実験もある。非常ベルなど不快な騒音を人に聞かせたとき、ガムをかむと脳が感じるストレスが減った。小野塚名誉教授も実験に参加し、「自然と我慢できるようになった」という。「かんでストレスを発散すれば、病気を予防できるのではないか」と期待する。
 健康への好影響は他にもある。例えば肥満予防だ。よくかむと、脳の満腹中枢が刺激され、食べ過ぎを防げる。おにぎりを朝ご飯に食べてもらったとき、一口(約15g)につき50回以上かんだグループは普通の食べ方をしたグループよりも摂取カロリーが平均して約280キロカロリー減った。おにぎり1個分以上、食べなくても満腹になったわけだ。
 「かむという行為は脳をよく使い、働かせる」と新潟大学の山村健介教授は主張する。口に入れた食べ物の形や味などの情報が刺激として脳に伝わる。脳はあごや舌などの筋肉と連携して食べ物を砕くように指令を出す。
 ガムを2分間かんだあとに記憶力テストをすると、高齢者ほど成績が良くなった。脳を調べると、記憶に関わる海馬などの働きが高まっていた。ネズミの歯を抜いたり削ったりすると、迷路で出口にたどりつくまで時間がかかるようになったとの実験もある。
 しかし、現代人のかむ回数は確実に減っている。卑弥呼(弥生時代)や源頼朝(鎌倉時代)、徳川家康(江戸初期)などの時代の食事を復元して比べると、弥生時代の人は1食に50分以上もかけ約4000回かんでいた。玄米やカワハギの干物などかみ応えのある食品が中心だったからだ。それが現代はたった11分間で終わり、かむ回数も620回までにまで減っていた。

●無理ない範囲で
 では、どうすればよいのか。軟らかいものを無理に長くかんでもおいしくない。いつも数えながら食べると、楽しい食事が台無しになる。
 かまずに飲み込んでしまうそばなどの麺類は避け、ごはんも麦を混ぜると、かむ回数が自然に増える。だが、嫌いなものを食べるのは苦痛で、長続きしない。「無理のない範囲でたくさん歩くのろ同じように、自然な形で多くかむことがよい」と新潟大の山村教授は話す。
 調理法の工夫も効果がある。同じ食材でも大きめに切れば、かみ砕くのに時間がかかる。薄味にすると、味がしみ出るまでかむようになる。
 とはいえ、忙しくて食べる時間がないという人も多いだろう。次善の策として「ガムを活用する」と東京医科歯科大学の水口俊介教授は助言する。仕事や勉強の合間にもかめ、最近はかむことを意識した製品も販売されている。
 現代人は便利な生活を手に入れ、かむという行為を軽んじてきた。手軽な健康法を実践しないのはもったいない。食べ物を飲み込む前に、もう1回かむようにしてはどうだろう。 (鴻知佳子)
ひと目で分かる「病気の偏差値」ランキング(4)
 初期症状が軽いために、見過ごされてしまいやすい病気はまだある。腎臓に関しては、ウェゲナー肉芽腫症が特徴的だ。
 「原因不明の血管炎の一種で、初期症状は、俗に蓄膿と呼ばれる病気に似た鼻づまりや、血液混じりの鼻汁です。風邪だと思って放っておくと、肺が出血を起こしたり、鼻の粘膜が侵されて鼻が変形することもある。最終的には腎不全になりますが、肺の出血などが原因で呼吸不全を起こすこともあり、発症から1年以内に3〜4割の方が亡くなってしまいます。早期に治療すれば治るのですが、症状が気づかれにくく、手遅れになりやすいのです」(横尾医師)
 糖尿病と同じように、生活習慣病である高血圧も甘く見られがちだが、放置しておくと徐々に血圧は上がり、危険度の高い悪性高血圧へと移行してしまう。横尾医師によると、「この状態で放っておくと、心筋梗塞や高血圧性脳症を発症し、1年以内に死んでしまうことがある」という。
 最後にもう一つ、意外にも危険な病気を紹介しよう。骨粗しょう症も、時として命に関わる病気になるという。長年、研究を続けている東京慈恵会医科大学病院整形外科の斎藤充医師が説明する。
 「骨粗しょう症で背骨を骨折する人が多いのですが、骨折した人の3人に1人は、痛みをまったく感じず、いつの間にか折れているケースです。その多くは、骨折したことで背骨が曲がっても、歳のせい、単なる老化現象だと思って放置している。これが危険なんです。骨粗しょう症で骨折した人は、通常より死亡リスクが8倍高くなるというデータが出ています。実は死の危険もある病気なのです」
 一般的には女性に多い病気だと思われがちだが、実際には男性のほうが骨粗しょう症による死の危険は高いという。
 「昔から、骨粗しょう症で骨折すると、男性の方が死にやすいと言われています。それは、骨の『質』が関係しているからなんです。
 男性のほうが、生活習慣病によって動脈硬化が進んでいる人が多いのですが、これは血管の錆。骨粗しょう症は骨の錆なんです。血管も骨も錆びている人は、骨密度が高くても骨折しやすい傾向にある。実際、骨粗しょう症の治療をすると死亡率が低くなるというデータも出ています」(斎藤医師)
 今後は、骨粗しょう症も、命の危険を招く生活習慣病の一つとして、気をつけたほうがよさそうだ。
 さまざまな病気を紹介してきたが、原因不明の難病を除いては、その病気の危険性を知らないがために放置し、重症化してしまう場合が多い。早期に気づいていれば、命の危険に至らないで済む場合があるのだから、その恐ろしさを知ることが、予防の第一歩になるのではないだろうか。


[『週刊現代 第54巻第12号』掲載「史上初!ひと目で分かる「病気の偏差値」ランキング」より]
ひと目で分かる「病気の偏差値」ランキング(3)
 最近増えているのが、一酸化炭素中毒の患者だ。練炭自殺だけでなく、自宅で炭火を使って焼き鳥をしたり、狭い茶室で湯を沸かすために火を使っている時などに起こし、病院に運ばれる人が後を絶たない。荏原病院脳神経外科部長・土井浩医師が警告する。
 「人間は、血液中の一酸化炭素ヘモグロビン濃度が15〜20%で頭が痛くなって朦朧とし始め、40%を超えると意識がなくなり、50%を超えると即死してしまう可能性が高い。一酸化炭素は無色無臭のため、換気を怠ると死に至る危険性があるんです。病院に運ばれて治療し、症状が一時改善しても、その後、遅発性脳症という恐ろしい後遺症を発症することがあります」
 日常生活に復帰できても2〜4週間後に、言動がおかしくなったり、尿失禁や歩行障害が起きてくることがあるのだ。放置すると寝たきりになり、最悪の場合、命の危険がある。
 3大死因の次に死亡者数が多い肺炎。中でも、間質性肺炎はよく知られてないうえに、決定的な治療法もない。筑波大学附属病院ひたちなか社会連携教育研究センター呼吸器内科教授の寺本信嗣医師が解説する。
 「10万人に20人ぐらいの割合ですが、一度発症すると症状が改善することはなく、完治しません。ピルフェニドンという薬が認可されましたが、この薬を使って病気の進行を止めることはできても、根本の治療は難しい。残念ながら10年で半分が亡くなってしまいます」
 肺胞のしきいである間質という部分が厚くなってくる病気で、はじめは乾いた咳が続き、進行すると、肺の容量が少なくなって息苦しくなる。徐々に呼吸数が増えていき、息をしていること自体が苦しくなってくる。患者にとっては非常に辛い症状だ。大半は喫煙の影響が大きいとされる。
 「間質性肺炎の方が喫煙されていると、肺がんのリスクが10倍にも高まるので、十分に注意してください」(寺本医師)
 感染症は、ワクチンの開発や治療薬の開発によって、年々状況が好転してきている。以前は、「発病=死」のイメージが強かったエイズも、予後はよくなってきているという。
 「HIVに感染しても、発症を抑える薬を飲めば、余命を伸ばすことができるようになってきました。たとえばデンマークでの調査では、25歳で発病しても、C型肝炎などのほかの病気を持っていない人だと、39年、つまり64歳までは生きられるというデータが出ているほどです。
 また発症すると100%死亡するとされる狂犬病も、感染しても発症前にワクチンを打てば死を回避できる。日本では'06年にフィリピンからの帰国者で感染が確認されましたが、1957年以降国内感染はありません。ですが、日本など少数の国を除いては狂犬病が蔓延しており、犬だけでなくアライグマやリスに咬まれて感染することもあるので、気をつけましょう」(都立駒込病院感染症科部長・味澤篤医師)
 現在もなお、もっとも恐ろしい感染症として危険視されているのが、エボラ出血熱とマールブルグ病だ。
 「日本での発病者はまだいませんが、アフリカで時に流行する感染症です。この2つに関しては、予防ワクチンもなければ発症後の治療法もない。どの動物からどう感染するのかさえわかっていないのです。万が一感染したら、隔離して、自身の免疫力で治るのを待つしかなく、非常に死亡率の高い病気です」(味澤医師)
 腎不全は死因こそ第8位だが、透析患者は年々増加しており、現在では約30万人が治療を受けている。腎不全になっても、人工透析で命は助かるからいいじゃないか、と思う人もなかにはいるかもしれないが、それは大きな勘違いだ。東京慈恵会医科大学病院腎臓・高血圧内科診療医長の横尾隆医師はこう言う。
 「透析を一度始めると、週に3度、1回に4時間もかかる血液浄化を一生続けなければなりません。会社をクビになる人もいますし、そこで初めて重大さに気づく人が多いのです。しかも、透析でずっと命がつなげるわけではなく、5年で約4割の方が亡くなってしまうのが現状です」
 最も腎不全を起こしやすい病気は、万病の元とも言われる糖尿病。慢性腎炎、腎硬化症、多発性のう胞腎といった病気も、放っておくと腎不全に至ってしまう。偏差値こそ低いが、きちんと治療しないと死につながる病気というわけだ。

<ひと目で分かる「病気の偏差値」ランキング(4)に続く>

[『週刊現代 第54巻第12号』掲載「史上初!ひと目で分かる「病気の偏差値」ランキング」より]
ひと目で分かる「病気の偏差値」ランキング(2)
 脳の病気の中で偏差値が最も高いALS(筋委縮性側索硬化症)は「神経のがん」ともいわれる難病だ。聖マリアンナ医科大学病院神経内科教授・長谷川康弘医師が説明する。
 「重篤な筋委縮と筋力の低下をきたす神経性疾患で、進行が早い。半数は、発症後3年から5年で呼吸筋麻痺により死亡してしまいます。どんどん手足が動かなくなり、意識はあっても全く体を動かすことも話すこともできなくなる。やがて呼吸もできなくなり、亡くなってしまいます。人口呼吸器で、ある程度の延命は可能ですが、原因不明で、現在はまだ治療法が確立されていないのです」
 年間10万人あたり数人が発症する。ALSとして難病認定されている患者は、現時点で8285人いるという。
 この時期、風邪だと思って見過ごされることが多いが、危険な脳の病気がある。
「風邪の菌が何かのはずみで脳の中の髄膜に入り込み、炎症を起こす髄膜炎です。発症すると、脳のあらゆるところが破壊されて、意識障害や全身けいれん、言葉が話せなくなるといった症状を起こす。命を落とすこともあります。病院へ行って風邪薬を飲んでも、38℃以上の熱と嘔吐が3日以上続いたら危険のサインです。発症から1週間何もしなければ、半数の人が命の危険にさらされます」(くどうちあき脳神経外科医長・工藤千秋医師)
 同じく、その危険性があまり知られていない脳の病気に、慢性硬膜下血腫がある。
 飲みすぎて酔っ払った帰り道、つまずいて電信柱に頭をぶつけてしまった。が、翌朝起きたときには、どうやって帰ってきたのかさえ覚えておらず、なぜだか顔にすり傷が……。酒グセの悪い人なら、こんな経験、一度は心当たりがあるのではないだろうか。
 痛みはすぐに治まっても、脳の硬膜下のでじわじわ出血が起こり、血の塊ができることがあるのだ。
 「打ってから1〜2カ月後が要注意です。歩くとき左右どちらかに寄ってしまう、ろれつが回らない、頭痛がする、男性の場合は小便の際に的を外すといった症状が出てきます。早期に気づいて手術をすれば救命できますが、放っておくと危険です。頭がぼーっとしてきてから1週間放置してしまうと、手遅れになってしまいます」(工藤医師)

<ひと目で分かる「病気の偏差値」ランキング(3)に続く>

[『週刊現代 第54巻第12号』掲載「史上初!ひと目で分かる「病気の偏差値」ランキング」より]
ひと目で分かる「病気の偏差値」ランキング(1)
 このところ、寝付きが悪い。体は疲れているのに、熟睡できず、睡眠不足で日中もボーっとしてしまう。なのに、昼寝もできない。50歳も過ぎたし、歳のせいだろうか。いや、仕事でストレスが溜まっているからだろうか……。
 Kさん(51歳)は、当初は単なる不眠症だと思っていた。だが、そのうちに一睡もできなくなって、やせ細り、食事をしても食べ物が呑み込めなくなって、声も出しにくくなった。ついには眠れないのに寝たきりとなり、8ヶ月後、その状態のまま亡くなった―。
 「致死性家族性不眠症」という遺伝性の病気をご存知だろうか。治療法はなく、発症から1年ほどで必ず死に至る病気だ。
 厚労省が発表した2011年の日本人の死因別死亡率は、がん29.5%、心疾患15.8%、脳血管疾患10.3%。これらの病気が命を脅かすということはよく知られているが、致死性家族性不眠症のように、患者数は少ないが恐ろしい病気、大したことないと思っていても実は危険な病気というのは数多く存在する。
 今回本誌は、放っておくと死に至る重大な病気の危険度を「偏差値」で表して一覧表にまとめた。死亡率や、発症から死に至るまでの時間、治療法の有無、QOL(生活の質)の変化などをもとに、編集部が独自に評価したものだ。偏差値が高いほど、危険な病気ということになる。
 病気別にさっそく見ていこう。まず、日本人の死因のトップのがん。治療法が日々進歩しても、種類によっては、治療が難しい病気であることに変わりはない。
 偏差値の上位には、すい臓がん、小細胞肺がん、胆道がんが並ぶ。すい臓がんや肝臓がん、胆道がんなどは、内視鏡で直接診察できる胃がんや大腸がんと違って、早期発見が難しい。見つかったときにはすでに転移していて手術不可能というケースが多いため、どうしても死亡率が高くなる。
 肺がんは患者数が多く、かつ死亡率も高い。なかでも怖いのが小細胞肺がんだ。進行がきわめて早いため、早期で見つかっても転移していることが多いので、手術不可能なことがほとんど。抗がん剤も効きにくく、末期であれば治療することはない。
 一方、偏差値の低いがんもある。胃がんでは、ステージIの初期がんの場合、5年生存率は約99%。内視鏡治療によって、お腹を切らなくとも完治することができる「治りやすいがん」の代表格だ。また、前立腺がんも偏差値は非常に低い。これは、進行が遅く悪性度も低いため、早期に発見されれば、治療をせずに経過観察をすることもある。それでも健常者と変わらぬ天寿をまっとうする人も少なくなく、「天寿がん」とも言われている。
 死因2位の心臓病では、心筋梗塞が突然死を招く怖い病気として知られる。それを上回る偏差値なのが心室細動だ。「太平サブロー・シロー」の漫才コンビとして活躍した太平シロー氏が今年2月に発症して亡くなったことでも話題になったが、これについて三好クリニック院長の三好俊一郎医師が解説する。
 「心室細動は不整脈の一種で、心臓が細かく痙攣する病気ですが、心筋梗塞を起こした直後に発症しやすいんです。痙攣が治まらないと、そのまま心停止してしますことも多く、心筋梗塞だけが起きた場合よりも、死亡する危険性を高めてしまうので、危険な病気と言えます」
 同じ不整脈では、遺伝性の家族性突然死症候群(QT炎症症候群)、そしてブルガダ症候群も、突然心室細動を起こしやすい危険な病気だ。心臓のポンプ機能が失なわれ、前兆もなく倒れて失神する。その場で救命治療を行わないと死に至ってしまうのだ。
 他にもあまり知られていない怖い心臓病がある。三好医師が続ける。
 「無症候性心筋虚血といって、症状が出ず、知らぬ間に心筋梗塞なることがあるんです。これはとくに高齢の糖尿病患者に多く、気づいたときには助からないということもあります。
 また、感染症心内膜炎という心臓の弁に菌がつく病気も危険です。例えば、歯を抜いたときなどに、血液を通って歯のバイ菌が心臓の弁に付着することがある。弁にはもともと血管がなく、血流の悪い臓器なので、一度菌が付くと、そこで増殖して弁を破壊してしまう。そのため、急性僧帽弁閉鎖不全症などを起こしてしまうこともあるのです」
 脳の病気では、いわゆる脳卒中の中でも、くも膜下出血の怖さがよく知られている。脳梗塞の場合は時間との勝負で、早く治療を開始できれば助かる可能性が高くなるが、くも膜下出血では、たとえすぐに病院に運ばれたとしても、発作を起こした時点で3分の1が死亡するからだ。

<ひと目で分かる「病気の偏差値」ランキング(2)に続く>

[『週刊現代 第54巻第12号』掲載「史上初!ひと目で分かる「病気の偏差値」ランキング」より]
健康維持、まずは生活習慣
 「生」「老」「病」「死」。
おしゃかさまは人間が向き合わねばならないものとしてこの4つをあげた。生、老、死の3つは避けられないが、病だけは予防できる。だれもが健康に高い関心を持つのは、病気やけがを避けたいという願いがあるからだろう。
 情報社会の現代では、健康に関する情報があふれている。とりわけ、“健康食品”に関するものが多い。新聞の折り込み広告や深夜に流れるテレビのCMを見れば一目瞭然だ。これまでにも何度か指摘したことだが、そもそも食品は健康を維持するためにとるもので、ことさら「健康を改善する」とアピールすることはおかしい。
 健康食品のテレビCMを見ていて気がついたことがある。いつからか「これは個人の感想です」や「効果には個人差があります」といった説明が画面に表示されるようになった。業界が自主規制しているのか、お上から指導があったのかは不明だが、表示も小さく、色も目立たないようにしているように感じる。
 こうした注意書きを入れさえすればよいのだろうか。確かに使用して効果があった人はいるだろう。しかし、医学的に「効果がある」とうたうには、必ずその商品を使って効果があったと推測されるだけの統計が必要になる。これは医薬品と同じだ。
 つまり、どれだけの人が健康食品をとり続けた結果、何人に効果が表れたのかをはっきりと示す必要がある。例えば、100人に効果があったとしても、調査した対象が300人なのか、3万人なのかで評価は変わってくる。信用できる効果なのか見極めるには、分母を知る情報が示されていることが重要なポイントとなる。
 分母を表示して説明している例もある。ただ、実践している良心的な健康食品メーカーはごくわずかだ。
 健康を維持することは、バランスのよい食生活と適度な運動、十分な睡眠でかなり達成できる。要するに、ごく当たり前の生活習慣の改善で済むことなのだ。特定の健康食品ばかりをとり続ける必要性はほとんど感じない。
 「これを実行すれば、病気や痛みなどみるみるうちになくなる」。こうした奇をてらった健康法とは、そろそろおさらばしたいものだ。
(江戸川大学特任教授 中村雅美)

[日本経済新聞 平成24年6月24日号 掲載記事]
睡眠障害 光で治療
 夜更かしの生活が続いたり生活が不規則になったりすると、睡眠のリズムが乱れ、昼間に健康的な活動ができなくなる。睡眠障害と呼ばれる症状だ。子どもが睡眠障害をきっかけに不登校や引きこもりになってしまうケースもある。こうした症状を改善するため、病院や家庭で人工の強い光を規則正しく浴びる「光療法」が注目されている。

 神戸市西区にある兵庫県立リハビリテーション中央病院。ここにある「子どもの睡眠と発達医療センター」の入院施設には、計15床の光療法に対応した病室がある。各病室の天井や壁には約7000ルクス以上のまぶしいくらいの光を出す照明装置があり、患者は決まった時間に光を浴びる。
 同センターで入院を受け入れているのは原則として未成年者。外来を含めて、睡眠障害で年間約200人の患者が新たに訪れている。睡眠障害が重症化して不登校や引きこもりになった中高生らが多い。慢性疲労症候群と診断される人も多い。
 「特に子どもの場合、睡眠障害が若者の身体の様々な不調の引き金になっている。光療法などにより睡眠のリズムを回復することで、症状が改善できる」と、三池輝久センター長は説明する。
 入院患者は長い場合では2カ月程度ここで規則正しい生活をしながら、生活のリズムを回復する。センターによると、約8割の患者で改善がみられたという。
 睡眠障害に対して、光療法がどのような仕組みで効果を上げるかについては、ほぼ解明されていると専門家は指摘する。
 ヒトには体内時計と呼ばれる、日単位の体のリズムを刻む仕組みがある。その周期は本来、1日24時間よりも1時間長い25時間。このままだとリズムが少しずつずれてしまうが、実際には朝、目覚めとともに日光のような強い光を浴びると、この体内時計がリセットされることがわかっている。

目からの光重要

 この場合、光を単に体に浴びるのではなく、目から取り込むことが大事。強い光が目に入ると、その情報が脳の視床下部にある視交叉(しこうさ)上核という場所に伝わる。ここが体内時計がある場所。光によって時計がリセットされる。
 さらにその情報が脳のより奥にある松果体に伝わる。ここでは睡眠を誘導するホルモンであるメラトニンが生成・分泌される。ただ、光を浴びた直後にはメラトニンの生成が抑制され、約14時間後の夜になるとメラトニンが分泌されて眠気を催す。このようにして昼間は活動的で、夜はぐっすり眠れるという正常なリズムが保たれる。
 こうしたリズムが狂うことで多くの睡眠障害が起こる。症状が軽いうちは朝に日光を浴びるよう生活指導することで改善する。光療法の場合は、最初は比較的遅い時間に光を照射、だんだんと照射する時間を早くして、体内時計のリズムが戻るようにする。こうして昼夜のメリハリのついた生活が送れるようにする。
 睡眠障害の治療を中心にてがけるスリープクリニック調布(東京都調布市、遠藤拓郎院長)には、若年層のほか、不眠などの不調を訴える会社員らが訪れる。同クリニックでは、生活の指導や、薬物の治療を行っているほか、必要に応じて光療法を実施している。
 睡眠障害で訪れる年間1000人ほどの患者のうち、5%ほどに光療法を行って効果を上げているという。入院施設で治療するほか、卓上タイプの照明装置を使って、自宅などで毎朝指定した時間に光を当てて目覚めてもらう指導も実施している。

うつ改善効果も

 遠藤院長によると、光療法は睡眠障害だけでなく、うつの症状にも効果があるという。睡眠障害の場合とは違って、うつの場合、症状改善にどのようなメカニズムが関わっているかははっきりとは分かっていない。「光療法と併用することで抗うつ剤の効果が高まるケースがある」(遠藤院長)という。
 北欧などでは日照時間が少ない季節に増える「冬期うつ」と診断される患者が多いといい、精神疾患と日照時間との関係が研究されている。睡眠障害が子どもの慢性疲労などにつながるのと同様に、成人では睡眠障害が生活習慣病などの広い範囲の疾患の引き金になっているという見方もある。睡眠のリズムを整える光療法が今後、様々な症状に応用される可能性もありそうだ。

[日本経済新聞 2011年12月25日号掲載記事]
東洋医学、体のバランス重視
 「未病」という言葉がある。「いまだ(未)病気(病)になっていない」を略したもので、病気ではないが疲れ、だるさなどがある状態をいう。漢方書の「黄帝内経(こうていだいけい)」に記載がみられる。「将来罹(かか)るであろう病気をあらかじめ治しておく」という考え方で、中国の医学(東洋医学)では「未病を治す」が基本になっている。
 病気の前兆を見つけて早いうち(あるいは病気が軽いうちに)治してしまおうというものだ。いわば前病気の状態である。ちなみに、すでに病気になっていることを漢方では「己病(きびょう)」という。
 前回、健康のためにはバランスのよい食事が最もよい、と書いた。体もバランスを保つことが大切で、未病はストレスなどによって体のバランスが崩れた状態を指すといえる。
 よくいわれることだが、西洋医学と、中国医学を中心とする東洋医学とは基本的な考え方が異なる。西洋医学は分析的で、病気の原因をとことん追究し、それを取り除くことを主眼とする。薬の効き方はシャープ。外科手術の考えも西洋医学からは当然出てくる。
 一方、東洋医学では体のバランスを重視する。病気になるのは、なんらかの理由でこのバランスが崩れた状態になることと捉える。漢方薬も体のバランスを健康な状態の時に戻すのに重点を置く。未病の概念もこの流れから生まれてきたようだ。もちろん、手術といった考えはない。
 西洋医学が分析的であるなら、東洋医学は総合的といってよいだろう。体質、体力といった言葉が東洋医学ではよく使われる。QOL(クオリティー・オブ・ライフ、生活の質)の向上を目指した医学ということになろうか。
 東洋医学では病気の原因を追究するのは「二の次」ともいえ、西洋医学の視点からだと、非科学的に映るかもしれない。
 しかし、体のバランスを整えるのはある意味では合理的ではないだろうか。体が持つ自然治癒力を生かし、漢方薬はそれを助ける、という考えは今の生活習慣病の克服にも通じる。
 ただ、何でもかんでも漢方や東洋医学、伝統医療で治すというのは少々乱暴な考え方でもある。東洋医学と西洋医学のバランスをとった病気の克服法、健康維持法があるに違いない。
(江戸川大学教授 中村雅美)

[日本経済新聞 2011年12月25日号掲載記事]
どうなる成分表示(下)誤解招く数字のマジック
[読売新聞 2011年7月22日号記事]

 現在の健康増進法では、食品に「塩分控えめ」など栄養に関する表示をする場合にのみ、1.熱量(エネルギー)2.たんぱく質 3.脂質 4.炭水化物 5.ナトリウムの5項目の含有量をこの順番で表示しなければならないことになっている。
 消費者庁では、この順番を見直し、ナトリウムを2番目に上げることを検討している。日本人は、世界的にみてナトリウムの摂取量が多く、心疾患のリスクと関係しているとのデータがあるからだ。
 「ナトリウム表示には、食塩の量だと誤解を招きやすいという問題があります」
 東京都豊島区の女子栄養大栄養クリニックの教授、蒲池桂子さんは、生活習慣病予防の講座などで注意を呼びかけている。
 食塩は、ナトリウムを主成分とする調味料で、ナトリウムと同じではない。生活習慣病予防のために、日本では食塩の摂取量を抑えるように指導している。家庭で調理する場合、ナトリウムの量は計算しにくいからだ。日本人の食事摂取基準によると、1日の塩分(食塩)の目標量は男性9グラム未満、女性7.5グラム未満。
 ナトリウム量から、食塩の量を知るには計算が必要。計算式は「ナトリウム量×2.54」。たとえば、あるカップ麺のナトリウムは2.7グラム。食塩は2.54倍の6.9グラム。このカップ麺を食べると、1日の目標量のうち、かなりの量を取ってしまうことがわかる。
 ナトリウム量が食塩量と同じだと誤解すると、食塩の過剰摂取につながる恐れがある。このため、医師らでつくるNPO法人の日本高血圧学会は今月15日、消費者庁に対しナトリウムだけでなく食塩相当量の表示も義務付けることを要望した。
 こうした数字のマジックはほかにもある。「100グラムあたり400キロカロリー」と、「1食分[10グラム)あたり50キロカロリー」を比べると、後者の方が少なく見えるので、業者は後者のような表示をする傾向がある。栄養成分をいかにわかりやすくするかは検討課題だ。
 米国では、すべての栄養成分が、1人が一度に消費する平均的な分量をもとに表示されている。さらに、この1人分を口にした際、1日の目安量の何%を摂取することになるのかも示している。
 イギリスでは、脂肪や糖分、塩分など、摂り過ぎるとよくない栄養素が多く含まれていると赤、中程度だと黄色、少ないと緑色で栄養成分を表示する。
 食品表示に詳しい日本生活協同組合連合会の鬼武一夫さんは、「表示を消費者に役立つようにするには、分かりやすくする工夫が欠かせない」と話している。

☆日本人の食事摂取基準:健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的として、厚生労働省が示すエネルギーや各栄養素の摂取量の基準。保健所の栄養指導などで使われる。食塩や脂質については、摂り過ぎを防ぐための「目標量」が設定されている。
どうなる成分表示(上)全ての加工食品 義務化へ
[読売新聞 2011年7月21日号記事]

 栄養成分表示のあり方を議論してきた消費者庁の検討会は20日、原則すべての加工食品でナトリウムなどの成分表示を義務付けることを求める報告書をまとめた。これをもとに、同庁は来年度、新しい法律案をつくり、国会に提出する方針。食品成分表示をめぐる課題を考える。

 現在の健康増進法では、食品に「カロリーオフ」「塩分控えめ」など栄養に関する表示をする場合にのみ、?熱量(エネルギー)?たんぱく質?脂質?炭水化物?ナトリウムの5項目の含有量を表示しなければならないことになっている。逆に、栄養に関する表示をしなければ5項目の表示もする必要はない。
 このままでいいのか、消費者庁では、学識経験者や業界関係者の検討会をつくって議論を重ね、原則すべての加工食品で栄養成分表示を義務化することを結論とした。
 検討会座長の坂本元子・和洋女子大学長は「バランスのとれた食生活をおくるため、消費者は栄養成分表示を見ることを習慣づけてほしい。手に取った食品に入っている栄養成分が、自分にとって多いのか少ないのか気に留めることが大切」と呼びかける。
 検討会では、多量に摂取すると心疾患のリスクを高めるトランス脂肪酸(☆)についても、議論していたが、表示義務化の判断は先送りした。日本人の場合、摂取量はそれほど多くないことなどが理由。
 トランス脂肪酸、コレステロール、食物繊維、糖類、ビタミン・ミネラル類などの栄養成分表示については、消費者庁で引き続き検討する。
 米国やカナダ、韓国などでは、トランス脂肪酸含有量の表示を義務付けている。日本でも、食品メーカーや生協が独自にトランス脂肪酸などの情報開示を始めた。
 雪印メグミルクや日本生活協同組合連合会も、自社商品のトランス脂肪酸含有量を、ホームページで公表している。
 サッポロファインフーズ(東京)は先月、パッケージの表面に、「トランス脂肪酸フリー」と表示したポテトチップス「ポテかるっ」を発売した。油で揚げずに作るなど製造過程に工夫を重ね、トランス脂肪酸の含有量をゼロにしたという。
 パッケージの裏側には、栄養成分も表示されており、各種脂肪酸なその総称である「脂質」だけでなく、脂質の一種である「飽和脂肪酸」「トランス脂肪酸」「コレステロール」の含有量も掲載している。同社の担当者は、「栄養成分を積極的に公開していきたい」と話す。
 主婦連合会会長の山根香織さんは、「健康にプラスになるものを強調した表示だけでなく、健康にマイナスになる栄養成分もきちんと表示し、消費者に伝えようとすることが必要だ」と話す。

☆トランス脂肪酸:マーガリンやショートニング、これらを原材料に使ったケーキやドーナツなどの洋菓子、揚げ物などに含まれる。心疾患のリスクを高めるため、世界保健機関(WHO)などの報告書は、トランス脂肪酸の摂取量を、1日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満にすることを求めている。日本人でも、脂肪の多い菓子などを大量に食べる人では、1%を超えているというデータもある。
老廃物を出す根菜パワー
<健康アドバイザー 吉野圭>
生姜の持つ力
 土の懐深くで育つ根菜は、それぞれ人体によい影響のあるパワーが秘められていることは古くから知られていました。
 なかでも生姜の効能は、その成分が解明される遙か昔から、解毒や風邪の特効薬、さらに健康維持や疾患の予防などにに活用されていました。
 生姜の活用の代表には「漢方薬」があります。なんと約半分の漢方薬に生姜が用いられているのです。
 春まだ浅きこの時期(注:3月号記事のため)、身体の内側では春に向けて新しい「息吹」が台頭し始めています。例えば、髪の毛や爪はリニューアルされて新しく伸び始め、体内の各細胞は、自然治癒力や抵抗力をめいっぱい育てようとしているのです。こんな時、冬期の間に身体に蓄えられた老廃物を上手に体外に出す手伝いをしてくれるのが生姜なのです。

加熱と生食との違い
 生姜の効能は下記の通りです。
 解熱・鎮痛、解毒、酸化防止、強心、消化力と吸収力、発汗、身体を温める、免疫力を高める、咳を抑える、血液さらさら効果、コレステロール低下効果、めまいや鬱の抑制などなど。まるで万能薬で、昔から貴重な特効薬として用いられてきたことが分かります。
 しかしこの生姜、生食と加熱食では効能が少し異なることが証明されています。
*生食の効能
 すり下ろして湯豆腐や冷や奴などに添えた生姜には、体内で白血球の増加が見られるというのです。つまり、体内に侵入した害のあるウイルスや菌と闘う免疫細胞が増えるということで、結果、自然治癒力や免疫力が高まるのです。
*加熱食の効能
 加熱すると、生姜の持っている「白血球増加力」は薄れますが、「煮る・炒める・茹でる」ことで、血管を拡張させる成分の働きが増加します。血管を拡張させる働きが増加すると、血行が良くなるため、血液の滞留が抑えられ、血液さらさら効果はもちろん、冷え性にも抜群の効果を発揮します。血液の循環が良くなると身体の隅々まで血液が正常に行き渡るため、肩凝りや足・腕の頑固なしびれからも解放され、この積み重ねで全体の体調が良くなります。

目的にあった上手な摂り方
 こんな万能の生姜ですが、生食ではわずか大さじ1杯が1日の目安です。
 風邪気味の時は、大さじ1杯のおろした生姜にぬるめのお湯とはちみつなどを加えると、風邪の特効薬だけでなく素敵なジンジャーエール飲料となります。
 加熱では、たっぷりと水を張った土鍋に、細かく切った生姜を入れ、とろ火で作った生姜湯が便利。季節の野菜や肉、豆腐など仕立ては自由。生姜の香りが食欲をそそり、免疫力も高まるというのですから、一石二鳥の摂取といえます。
 使用時のポイントは、皮ごと使うこと。栄養価や生姜のもつ力が失われません。また保存は冷蔵庫ではなく新聞紙にくるんで暗所に。
 大量に使うときは、安価な輸入生姜を、生食は香りの高い国産をと、使い分けるにも一工夫しましょう。

[月刊ピスク3月号(平成23年3月5日発行)(第38巻3号 通巻487号)pp21]
散歩で足を鍛える 意外な健康効果も
<健康アドバイザー 吉野 圭>
「老化は足から」とか「足は第2の心臓」という言葉があります。人間の健康に足はどのように関わっているのでしょうか。

老化は足からの意味は?
 身体の筋肉は年齢を問わず、使わないと急速に衰えます。入院を体験した人はわかると思いますが、1週間の入院でも足の萎えが体感できます。
 筋肉が衰えると、歩くときに足の上りが少なくなり、歩幅も小さくなります。これが、つまずきや転倒の原因にもなってくるのです。高齢者の足のねんざや骨折は要注意、寝たきりへの危険性をはらんでいます。足を鍛えるためには、散歩時などに、意識して足を上げましょう。

「第2の心臓」の意味は
 人間の身体は心臓から送り出された血液が、なめらかに全身を巡回することで各器官が持っている役割を果たせています。足先まできた血液を心臓に送り返すポンプの役割をしているのが「足全体」なのです。歩いたり階段を上ったり、足を動かすことで、心臓に血液を送り返していることになります。歩くことがいかに大切かがわかります。

散歩の健康効果
 足を鍛える方法の第一は、とにかく歩くことです。なかでも、時と場所を選ばない「散歩」は、足を鍛える最高の方法です。
 厚生労働省は1日1万歩を推奨していますが、長続きさせるためには1日5千歩(場合によっては3千歩以上でもOK)ぐらいを目安にしましょう。大切なことは、長続きさせることです。
 この散歩、足腰を鍛えるだけでなく、思わぬ健康プレゼントがあります。
1.腰痛の防止…デスクワークや歩行数の少ない人は、年齢に関係なく腰痛になりやすいというデータが出ています。運動不足で筋肉が衰え、加えて肥満などから身体のバランスを悪くさせ、結果として腰痛になっていくのです。
 腰痛の悩みを持っている人は、意識した散歩、つまり背筋を伸ばし正しい姿勢で散歩してみましょう。ポイントは続けることです。散歩で即、腰痛が解決するわけではありませんが、生活習慣で衰えた筋肉を鍛え直し、姿勢を是正することで腰痛の悩みから解き放されます。
2.脳の活性化…加齢とともに脳に送られる酸素の量は少なくなっていきます。酸素の量が減少すると脳の機能は低下し、痴呆症やボケなどのの症状なることがあります。
 意識した散歩やウォーキングなどの有酸素運動は脳に酸素を効率よく運ぶため、痴呆症やボケなどを予防するといわれています。
3.便秘の予防…排便がスムーズにいかなくて悩んでいる人は意外に多いようです。バランスの良い食事のあとは快便でありたいもの。散歩は腹部の筋肉も鍛えるので、排便がスムーズになります。
 ただし、腹筋をより鍛えるため、散歩時は背筋を伸ばすなど姿勢をよくして行いましょう。腹筋を鍛えると、胃腸の働きも活性化されます。
 以上のほかに、散歩から得られる健康効果は、肩こりの解消、肥満の防止、ストレス解消、安眠への誘導などさまざまです。
 便利な社会は、二足歩行の人間を歩くことから遠ざけました。歩くことに健康効果をかみしめ、毎日の「意識した散歩」を始めましょう。

[月刊ピスク4月号(平成23年4月5日発行)(第38巻4号 通巻483号)pp21]
放射線、リスクを読み解く 04|リスクの目安を探る(4)
[Part4] チェルノブイリの経験と教訓

「人々が放射線を恐れる最大の理由は、情報が少ないことだ」
ヴァレリー・カシュパロフ ウクライナ国立農業放射線研究所長

一面の畑が地平線まで続いている。ウクライナ国立農業放射線研究所は、キエフ郊外の平原の真ん中に位置していた。

私を迎えてくれた所長のヴァレリー・カシュパロフ(53)は、10人ほどの東洋人の一団を伴っていた。日本の農水省や関連機関などからの訪問団だった。

1986年のチェルノブイリ原発事故を受けて設立されたこの研究所は、放射線の農作物への影響や農地の回復策などの調査研究を担ってきた。
福島第一原発事故への対応策を探る農水省などは、その経験に学ぼうと視察に来たのだった。

チェルノブイリ原発の周囲半径約30キロは事故後、立ち入り制限区域に指定され、住民約13万人が集団移住を余儀なくされた。

区域内や周辺で採れる農作物に対して、旧ソ連は事故翌月の86年5月、野菜を1キロあたり3700ベクレル以下とするなど、かなり高濃度の規制値を食品ごとに設定。

放射能の減衰に伴って数値も段階的に下げる措置を取った。規制値は低い方が望ましいが、あまりに厳しいと食料確保に支障が生じると判断したようだ。作物の放射線量を測定するのが同研究所だった。ソ連崩壊後、予算が落ち込んだ同研究所は、放射線測定器を手づくりでそろえたという。

同国最新の規制値は06年に改定され、野菜は1キロあたり40ベクレル、牛乳が100ベクレルなどとなっている。作物の多くはこれを下回る。カシュパロフは「制限区域内で取れる農作物も、一般的に食べて問題ない。そもそも人が食べる物の成分は体にいいものばかりではなく、放射線だけを気にするのはおかしい」と語る。

ただ、依然問題も残る。その最大は、作物によって汚染の度合いが大きく異なることだ。

キノコ、野生のベリー、野生動物の肉はセシウム137を取り込みやすく、規制値を超えているという。場所による差も大きく「この畑はきれいだけど隣の畑は放射線だらけ、といったケースも珍しくない」と副所長のミコラ・ラザレフ(53)。

例えば、原発の西数キロの汚染が最も激しい「赤い森」地区にある実験農場で採れる作物からは、他の場所より100倍も高いセシウム137が検出される。

事故から25年をへても、農業再建にはほど遠い状況だ。(国末憲人)

[朝日新聞グローブ 通巻65号 2011年6月19日発行]
放射線、リスクを読み解く 04|リスクの目安を探る(3)
[Part3] リスクめぐる合意形成を
岸本充生氏(産業技術総合研究所)に聞く


他の毒物への対応と比べ、今回の放射線リスクの扱われ方は、どう評価できるのか。化学物質の「リスク評価」が専門の岸本充生氏(産業技術総合研究所安全科学研究部門グループ長)にきいた。

発がん性のある化学物質の代表例、ベンゼンでは、生涯摂取し続けてがんが生じる確率を10万人に1人(0.001%)にとどめるという目標に基づいて基準値を決めている。

前提となっているのは、放射線と同様、毒物の量とリスクが直線的に比例するという仮定だ。「しきい値」があると主張する人はいるが、政府の審議会でも議論したうえ、一つの約束事として値を決めた。

これに対し、放射線については、どのリスクレベルを「安全」とみなすか、そもそも社会的なコンセンサスづくりが不十分だったのではないか。

原発事故後は、偉い肩書の人たちが「大丈夫です」「安全です」と一方的に説明するケースが目立ち、根拠も多くの場合は「ICRPが言っている」止まりだった。

加えて今回は、緊急時のために通常時と違う基準を使うという難しさもあった。これは他の化学物質でも経験がない。しかし、だからこそ緊急時と通常時では基準値や、その意味合いが違うことを説明すべきだった。

通常時は健康だけを基準にするが、緊急時は対策をとることによる不利益と比較しながら考えている。そこの納得が得られなければ、たんに「基準を緩めた」としか思われない。

そもそも、リスク評価の手法は、原発の事故確率や放射線リスクの評価の中で生まれた。しかし、今回、いつの間にか化学物質よりも遅れをとってしまった印象をもった。

原発をめぐっては、「緊急時を想定すると、『危ないのか』と思われかねないので準備もしない」という、リスクに目を背ける傾向が、やはりあったのではないか。(聞き手 青山直篤)
放射線、リスクを読み解く 04|リスクの目安を探る(2)
[Part2] 発がんのリスク、比べるなら…

放射線を浴びることは、健康にとってどれくらいのリスク要因になるのか。

国立がん研究センターは、生活習慣や嗜好(しこう)品によるリスクと比べる目安として、右の表を公表している。

例えば、広島・長崎の被爆者の40年間の追跡調査によると、原爆により1000ミリシーベルトの放射線を浴びた人のグループは、浴びなかった人のグループより、がんの発生率が1.5倍になったという。

この10分の1の100ミリシーベルトの場合は、発がんリスクも比例して下がるとみて1.05倍と推定している。

(この数値は、ICRPの示す、放射線によるがんの発生確率とは概念が異なる。また、原爆による一瞬での被爆と、低線量で長期間にわたる被曝との間の違いもある)。

一方、嗜好品・生活習慣については、40〜69歳の日本人のグループを約10〜15年追跡調査したデータなどからリスクを算出している。

週にビール大瓶を13〜20本近く飲む人のグループは、ときどきしか飲まない人のグループよりがんの発生率が1.4倍になったといった結果だ。

ただ、酒やたばこ、食生活、運動などによるリスクは大人が自分で望んで選んだ結果という面が強い。しかも、長年の習慣になっている可能性が高い。

一方、原発事故復旧の作業者には、3カ月で数百ミリシーベルトの被曝を余儀なくされた人も出ている。年間1〜20ミリシーベルトの地域に暮らす場合でも、線量が高止まりすれば、年々累積の被曝量は増え、それに応じてリスクも増す。

「目安」にするためには、こうした違いも踏まえて考える必要がある。

もう一つの表は、飲料水や食品に含まれる放射性物質についての各国の指標値(農水省まとめ)。

日本の場合、表の暫定規制値を上回ると出荷制限などの対象になる。国による食生活の違いなどが反映されている。(鈴木暁子)

関連資料
放射線、リスクを読み解く 04|リスクの目安を探る(1)
[Part1] 「漠然とした不安」から「正しく恐れる」へ
梶原みずほ(GLOBE記者)


今回の取材の出発点は日本に暮らす一人の人間として、5歳の子を持つ親として、放射線のリスクをどう考えればいいのかという疑問にあった。

原発に近い地域に暮らす人の切実さには比べるべくもないが、土壌や海水の汚染による食品や水への影響はどれくらいなのか、体内に取り込んだ放射性物質で長く被曝したら何が起きるのか、東京に住んでいても正直いって不安だった。

正しく恐れる──。放射線から身を守る方法は、正しい情報をもとにリスクの正体をつかみ、正しく恐れることにつきる。取材を通じ、その思いを強くした。

内外のさまざまな規制のよりどころになっている国際放射線防護委員会(ICRP)は、累積で100ミリシーベルトの被曝をしたときに、致死性のがんが0.5%つまり、「1000人に5人」の確率で増えるとみる。

100ミリシーベルト以下のリスクは不確かだが、放射線防護を考えるうえでは、被曝量とリスクは比例するとの仮定を置く。1ミリシーベルトでは「10万人に5人」と仮定されることになる。

どんなに低い量でも「絶対安全」はなく、わずかではあれリスクがあるという考え方だ。子どもは生涯での発がんの確率が大人の2〜3倍高くなるという。

今回の事故では、チェルノブイリ事故の1割を超える放射性物質が環境中に漏れ出た。広くばらまかれたセシウム137の半減期は30年に及ぶ。事故を招いた責任は問い続けていかなければならないが、すでにこうした状況に置かれている以上、「リスクの重み」を考えながら、被曝を減らしていく判断をしていかざるをえない。

平常時なら気にせずに済んだことに注意を払い続けなければならないのは腹立たしい。ただ、私たちは放射線以外でも、日常的に様々なリスクと無意識のうちにつきあっているのも一方の事実だ。

国立がん研究センターによれば、運動不足や肥満のほうが、100ミリシーベルトの被曝よりもがんのリスクが高いという。もちろん、生活習慣のように自分で選択したり管理したりできるものと、原発事故で強いられた被曝を単純には比べられない。

様々な仮定やデータ上の制約もある。それでもリスクを相対化するうえでの参考にはなる。

事故発生直後、政府は「ただちには健康に影響はない」といった分かりにくい説明を続けた。一方、JCO臨界事故の被曝者の治療にあたった経験もある自衛隊中央病院の箱崎幸也・内科部長は、当時から次のような説明を提案していた。

「被曝量が高いと数年〜数十年後にがんの危険性が高まると考えられ、その程度はたとえば100ミリシーベルトで0.5%の増加です。喫煙や肥満によるがんの危険性の数十から数百分の一です」。

これを早く聞いていれば、私の不安も少しは小さくなったと思う。

ただ、まだ残る「不安」もある。

一つは、一部にではあれ、低線量被曝についてのICRPのリスク評価は甘いとの指摘があることだ。原爆症認定訴訟で原告側の証人を務める物理学者の沢田昭二・名古屋大名誉教授は、「原爆症認定の集団訴訟の中で内部被曝の深刻さは無視できなくなってきている」という。ECRRのリスクモデルについて、「未完成だが、内部被曝の影響を数値化する努力は評価すべきだ」と話す。

低線量被曝については逆に、微量の放射線は細胞の免疫力を高め、健康にプラスだと主張する専門家の話もきいた。

議論の隔たりは、研究の進展によって小さくなることを期待するしかない。また、政府の対応のうえで、専門家の多くが支持するICRPの見解をまず参照するのも理解できなくはない。だが、科学的に解明されているのはどこまでで、どういう議論が残っているのか、同時に示して欲しい。

ICRP専門委員会メンバーでもある甲斐倫明・大分県立看護科学大教授は「ICRPは微量でもリスクがあると仮定した防護を長い間行ってきた。そこで想定している低線量での発がんリスクが本当に正しいかどうかは科学的には明確にできない。

リスクが小さくなると、他の要因によるがんのかげに隠れてしまうからだ。このことを社会にいかに周知しながら、リスクを減らすための判断を行うか。それが現在の課題だ」と話す。

もう一つ、リスクを冷静に判断して「正しく恐れる」うえで欠かせないのが、十分な質と量の一次データだ。政府や自治体、東京電力などがすでに持つ情報を開示するだけでなく、大気や土壌、海水、農産物などについて信頼できる数値をもっと集め、公表するべきだ。

十分な情報がない中で、身の回りの線量を測って自衛しようとする人々もいる。しかし、個人の努力には限界があり、社会全体でも取り組むべきだろう。

大量の放射性物質の回収は難しく、数十年単位での監視や除染などの対策が避けられないからだ。そのためにも、政府は、すべての対策の基礎になる徹底調査のための投資を惜しむべきではない。
「漠然とした不安」を「リスクに基づいた判断」に変えるには、まだ多くのハードルが残っている。
放射線、リスクを読み解く 03|検査の網はどこまで(2)
[Part2] 体制は拡大したが、品目や頻度はまちまち

6月初旬、東京都内にある自宅そばのスーパーをのぞいた。

隣県ということで千葉産の野菜や魚の種類をざっと数えてみると、11種類。千葉県に尋ねると、その時点で県が放射性物質の検査を済ませていたのはこのうちキャベツ、大根、ミニトマト、サンチュ、ブリの5種類。枝豆、サツマイモ、大葉、ワケギ、ヤマトイモ、カブは検査の対象外だった。

県の担当者は「(検査品目を増やす)努力をしているが、検査能力に限りがある」としたうえで、大葉やカブは福島第一原発がある福島県ですでに検査され、暫定規制値を下回っていることや、ヤマトイモは震災前に収穫されたものだということなどを説明してくれた。検査対象外イコール危険、ではないということのようだ。

こんなことを調べてみたのは、検査体制が気になっていたからだ。

茨城県ひたちなか市の県環境放射線監視センター。円筒型の装置の中にポリ袋に入った検体が置かれ、ふたを閉じて1時間20分ほどすると、検査結果を示すグラフが現れる。放射線測定の光景だ。
薄い緑色の機械は「ゲルマニウム半導体検出器」と呼ばれ、セシウム137などが出すガンマ線を測定する。同センターに4台あるこの装置は、原発事故後、フル稼働状態が続く。

放射性物質の食品に関する暫定規制値は、厚労省が震災6日後の3月17日に自治体に通知した。対象や頻度などの検査方針を示したのは4月4日。いま、国が主体となって検査をしている福島県のほか、茨城、栃木、群馬、宮城、山形、埼玉、千葉、新潟、長野、神奈川、静岡、山梨、東京、愛知の計15都県が国の要請を受けて検査を実施している。

厚労省の方針によると、各都県はそれぞれ複数の検査対象区域を設け、週1回程度の頻度で放射性セシウムと放射性ヨウ素の濃度をサンプル調査する。

重点的に検査すべき食品として示されたのはホウレンソウ、シュンギク、かき菜、ミズナ、コマツナの葉物野菜と原乳。その後、原木シイタケと生茶葉、生茶葉を乾燥させた荒茶が指定された。これ以外の品目は、各都県が独自に選んでいる。

福島県では、6月初めまでに137品目、1767件が検査を受けた。茨城県は、毎週1回、少なくとも5品目の葉物野菜と旬の農作物、魚などを検査してきた。生産する農作物は100品目を超えるが、6月初めでの検査済みは24品目。千葉県は同時期、魚介類22品目、農作物29品目を調べた。
検査は、放射性物質の広がり方や作物の変化に応じた対応も迫られる。

事故から3カ月がたち、上空から降る放射性物質による作物汚染は減った。これからは根を通じた土壌からの汚染が懸念される。また、半減期が約30年と長いセシウム137などの検査がより重要になる。夏野菜のシーズンを控え、政府は検査対象品目の変更や検査の重点をセシウムに移すことなどを検討しており、近く新たな方針として発表する予定だ。

ただ、自治体の現場は、機器不足で検査が追いつかない状態にある。
東海村やつくば市などに原子力関連施設が多い茨城県は、環境放射線監視センターのように事故前から高い検査能力があった。だが、こうした県は例外だ。

福島県は県内の検査機関では間に合わず、千葉市の日本分析センターに食品を送っている。自前の機器を持たない千葉県は、東京の日本食品分析センターに検査を依頼している。放射性物質の指定検査機関の数は限られ、設備のない県は順番待ちをするしかない。

これまでに見たように、自治体によって検査品目数や頻度はまちまちだ。出荷・消費量が多いものが優先され、検査されていない品目は少なくない。

そこで、消費地側も安全をチェックしようと動き始めている。
岐阜県は検査装置を2台購入し、9月から東日本産野菜の検査を独自に始める。横浜市や静岡県浜松市も店に並ぶ食品の検査の準備を進めている。

東京大学名誉教授の唐木英明(食品安全学)は「産地の端から端まで調べなくても放射性物質の飛散状況は把握できる。課題は、福島県や近隣県のデータを、わかりやすいかたちで消費者が手にしにくいことだ」と指摘する。

食品流通構造改善促進機構が各地の検査情報をホームページでまとめているが、もっと周知が必要だ。(鈴木暁子、国末憲人)
放射線、リスクを読み解く 03|検査の網はどこまで(1)
[Part1] 検査と風評のジレンマ 揺れる生産地

「一度、検査でセシウムが出たことを、漁業者は今も引きずっている」
―茨城県・大津漁協の幹部

これから漁期を迎えるマダイ、スズキ、ヒラメから暫定規制値を超える放射性物質は検出されなかった。5月下旬、待ち望んだ検査結果を得た大津港(茨城県北茨城市)の漁師はしかし、話し合いの末、小型船の漁自粛を6月いっぱいは続けると決めた。

「すぐそこは福島の海。今回の検査で規制値内だったと言われても、安全な魚を届けるには、今は慎重にしなければ」。

大津小型船組合の組合長代行、鈴木稔(59)は危機感をゆるめていない。

4月はじめ、隣の平潟漁協のコウナゴ(イカナゴの稚魚)から放射性ヨウ素が1キロあたり4080ベクレルという高い値で検出され、全国に衝撃を与えた。

翌日、大津港沖のコウナゴからも規制値を超える526ベクレルの放射性セシウムが出た。茨城県の要請で県内のコウナゴ漁は全面自粛となり、大津の小型船漁師たちは、震災以来まったく漁に出ていない。

係留されたままの船が並ぶ港は、人影もまばらだ。

自粛が長引くにつれ、検査をして早く漁に出たいと望む漁師と、風評被害を懸念して検査時期や調べる魚種を慎重に見極めたいと考える漁協の意見が食い違うこともあった。今回の検査は、次の漁期からの漁再開を期したものだった。

しかし、結果が出てみると、「自重すべきだ」という声がまさった。もし、再び規制値を超える放射性物質が出れば「茨城の魚」全体への影響は大きい。「その時だれが責任をとれるのか」と鈴木は問う。

神奈川県の茶葉生産者は、予期せぬ検査結果に翻弄(ほんろう)されている。
福島第一原発から300キロ近くも離れた南足柄市で、震災からちょうど2カ月がたった5月11日、足柄茶の生茶葉から規制値を超える放射性セシウムが出た。生産者たちは仰天した。

汚染がないことを数値で消費者に示そうと自主的に実施した「安心のための検査」(JAかながわ西湘幹部)だったからだ。 地形や風向きなどの条件が重なった現象とみられているが、専門家ですら「これほど遠くでまさか」と驚いた事態だった。

それでも、規制値を超えたことで生茶葉には国から検査強化の指示が出た。

6月2日には、生茶葉を乾燥させた加工途中の「荒茶」にも同じ規制値の適用が決まり、他県の茶産地にも動揺は広がった。

南足柄の茶農家、柏木利一(69)は「いい茶を作りたいという夢が事故でくじかれた。規制値が妥当なのかはわからない。消費者の安全のためには検査してよかったと思う一方、よその県の産地にまで問題が広がり、申し訳ないという思いもある。複雑です」と話す。(青山直篤)
放射線、リスクを読み解く 02|食品基準の根拠は(2)
[Part2] ICRPへの支持と批判

ICRPをよりどころにしているのは、日本だけではない。

140カ国以上が加わる国際原子力機関(IAEA)や世界保健機関(WHO)、国連食糧農業機関(FAO)の基準もICRPの勧告がもとになっている。

影響力の背景にあるのは長い歴史と専門家集団としての重みだ。前身の組織が生まれたのは1928年。医療現場でX線の利用が広まり始めたころだ。50年にいまの姿になり、放射線の単位に名を残すスウェーデンの科学者、ロルフ・シーベルトもかつて委員長を務めた。

12人で構成する主委員会の下に五つの専門委員会があり、タスクフォースなども加えると30カ国から約250人が無報酬で参加しているという。

勧告の判断材料にする調査データは、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)が集めたものを主に使い、運営費は各国にある約20の原子力の研究組織による資金援助が8割、残り2割は刊行物の収入でまかなう。

委員の選考に明確なルールはなく、「資金拠出とその国の委員の数は無関係」という。日本からは主委員会に京大名誉教授の丹羽太貫が、専門委員会に6人が名を連ねる。
ICRPに対しては、「原子力利用の推進が前提で、放射線のリスクを過小評価している」という批判もある。
その急先鋒が英アルスター大客員教授のクリス・バズビーだ。

97年に欧州議会内の環境派グループ「緑の党」が発足させた「欧州放射線リスク委員会(ECRR)」の中心メンバーで、弱い放射線量を微量に浴び続けることの健康被害はICRPの想定よりかなり大きい、といった独自のリスク評価をしている。プルトニウムなどの放射性物質が体内に入ったときに、臓器の一部に局所的に起きる内部被曝の影響が大きいという主張だ。

4月には「2061年までに福島原発の半径200キロ圏内で41万7000件のがんが発症する」との予測を公表。福島で5000人の健康追跡調査も計画している。

ロンドンで会ったバズビーは「ICRPは机上で論じているだけで、自分たちで調査することもしていない」と主張した。

福島についての自身の予測はどの程度の支持を得られているのかと問うと、「我々の主張は原発や核兵器の否定につながるため賛同する専門家は多くはない。正しいかどうかはフクシマが証明するだろう」と話した。

一方、ICRPのメンバーらは「バズビーらの主張は、専門家の査読を得た論文に基づいておらず、科学的な根拠があるとはいえない」と話している。(梶原みずほ)
放射線、リスクを読み解く 02|食品基準の根拠は(1)
[Part1] 日本の「暫定規制値」 急ごしらえの限界

原発から大量の放射性物質が漏れ出るなかで、あわてたのは厚生労働省と農林水産省だった。

「原発の近くの農産物が市場に出回ってもいいのか」という問題が浮上したからだ。折しも、春物の野菜の出荷シーズン。だが、規制するにしても、何を根拠にするのか──。

有毒・有害な物質が一定の基準を超えて含まれる食品は、食品衛生法で販売が規制されている。しかし、放射性物質についてはこの法律上の規定がなかった。政府は内外の基準を調べたすえ、震災6日後の3月17日になって、原子力安全委員会の防災指針にある指標値を「暫定規制値」として流用することに決め、自治体に通知した。

防災指針は、平常時ではなく事故時の対応のガイドラインだ。つくられたのは米スリーマイル島原発事故の後。飲食物についての指標値はチェルノブイリ原発事故のあとの1998年に改訂されている。

当時の報告書を読むと、改訂にあたって、ベースにした数値があることが分かる。ICRPの1984年勧告にでてくる「5ミリシーベルト」という値だ。

この勧告は、事故の発生後数時間から数日間の「中期」には、水と食料品の流通・消費の制限がありうると指摘。

食品を通じた被曝量が年間全身で5ミリシーベルトを上回る恐れがあることを制限導入の目安にした。通常時の一般人の限度(1ミリシーベルト)より高い値だが、水や食品の不足が予想されるようなときには、一時的には高めの値を許容するという考え方だ。

防災指針はさらにICRPの1990年勧告もふまえたうえで、放射性のセシウム類とウラン、プルトニウムでそれぞれ年間5ミリシーベルト、ヨウ素については甲状腺にたまる量で年間50ミリシーベルトという数値を飲食を制限する目安に採用。それを上回らないようにするため食品を数グループに分けて必要になる指標値をはじいた。

この指標値の流用を決めた後、厚労省は、食品安全委員会に放射性物質についてのリスク評価を依頼した。食品安全委員会は、牛海綿状脳症(BSE)での混乱をふまえてつくられた組織。

 ここでの科学的な評価をしたうえで、厚労省などが規制値を定めるのが本来の筋なのだが、非常事態で順序が逆になった。


 委員会は依頼から9日後の3月29日に「緊急とりまとめ」を公表。セシウムとヨウ素について、防災指針の考え方を「食品由来の放射線曝露(ばくろ)を防ぐうえでかなり安全側に立ったもの」などと追認した。

 ただ、この規制値には二つの「限界」がある。

 一つは、「緊急とりまとめ」にも書き込まれているように、時間的な制約のなかで、いわば応急的につくられたという限界だ。

 食品安全委員会が検討したのは、防災指針のもとになった報告書やICRP、WHO、IAEAなどの国際機関の文献が中心。「厚労省からの資料は評価を行うには十分なものではなかった」とも記され、「とりまとめ」のかなりの部分はICRP文書の引用で占められている。

 もう一つは、つくられた基準そのものが「非常時対応」の性格を持ち、「平常時」のリスク管理の根拠に使うのは不適切としている点だ。
そもそも防災指針自体に、「この指標は放射性物質が健康に悪影響を及ぼすか否かを示す基準ではない」との注記があり、原発事故などの緊急事態に、対策を判断する目安の値だとされている。ICRPの数値も、事故時を前提にしたものだ。

 この点も食品安全委は認めており、「食品健康影響評価に関するワーキンググループ」で、平常時の対応のもとにもなるリスク評価を議論し、7月にもまとめるという。
 
 ただし、物質ごとの性質などについての細かい検討は進んでいるものの、結論の方向性はまだみえていない。

 ワーキンググループ委員を務める東京大学医学部教授の遠山千春は、「体の外からの『外部被曝』と、食品などからの『内部被曝』をあわせて健康に影響をもたらさないとみなせる全体の被曝量の基準を、まずは決めるべきだ」と話す。

「5ミリシーベルト」という数字を変えるのか。個別食品の規制値のはじき方はどのように決めるのか。非常時と平常時をどう区別するのか。規制値が変わったときに農産物の検査や生産・流通への影響はでないのか──。課題は山積みだ。(梶原みずほ)
放射線、リスクを読み解く 01|国際基準の「考え方」
「基準」をどう受け止めるか
 
 東京電力福島第一原発事故から3カ月。○○ミリシーベルト、××ベクレルなど、放射線被曝(ひばく)についての「基準」を意識する暮らしが続いている。原発に近い地域の住民にとっては、そこに住み続けられのか、子どもを遊ばせられるのかという切実な問題であり、他の地域でも「食べもの」への影響は気にせずにいられない。こうした「基準」は、どのように決まっているのか。どう受け止めていけばいいのか。 (シリーズ内文中敬称略)

   [朝日新聞グローブ 通巻65号 2011年6月19日発行]

[Part1] ICRP幹部にパリで会った

 東電の原発事故から3カ月余り。この間に日本政府がとった対策の「よりどころ」をたどると、多くの場合、ICRPという組織に行きつく。International Commission on Radiological Protection(国際放射線防護委員会)のことだ。

 例えば、首相官邸のホームページにある「計画的避難区域」のQ&A。今後1年間での放射線の合計が20ミリシーベルト以上と予想される地域を対象にした理由について、「国際基準です」と説明し、「ICRPが定める、緊急被曝状況における放射線防護の基準値」と付記している。

 ICRP側も事故直後の3月21日に、対策を考えるうえでの目安にすべき数値を挙げた声明を発表していた。

 20ミリシーベルトといった数字は、福島県内での学校の校庭利用でも議論になった。「国際基準」はどんな考え方なのか。

 5月下旬、二人の中心的なICRPメンバーをパリに訪ねた。一人はカナダ人のクリス・クレメント。ICRPの事務を仕切る科学書記の肩書を持つ。もう一人は20年近くICRPにかかわるフランス人のジャック・ロシャール。放射線防護が専門で経済学者でもある。

 ICRPには本部組織はない。世界各国で放射線関連の研究や業務に携わる約250人の専門家のネットワークで、専従はオタワに住むクレメントとその助手の2人だけ。各国をクレメントが飛び回って調整にあたる。パリにも事務所があるわけではなく、二人に会ったのは街中のカフェだった。

 まず尋ねた。「3月21日の声明の狙いは何だったのか」。政治的独立性を掲げるICRPは各国の個別案件に言及しないのが原則で、今回は異例の対応だったと聞いていたからだ。

 クレメントはこう説明した。「被災者への哀悼が第一。それに、この数年にICRPが出した重要な勧告を日本の人々によく知ってもらいたかった。勧告が各国で熟知され、法令や規制に反映されるまで10年かかってしまうこともざらだから」

 重要な勧告とは、「2007年勧告」と、それをさらに具体化した09年の二つの文書を指す。原発事故が進行中のような時期(緊急時被曝状況)には被曝を減らす対策の目安を「年間20?100ミリシーベルト」に、事故後の復旧期に被曝が長く続くような場合(現存被曝状況)は「年間1〜20ミリシーベルト」に置いた。

 これは安全性についての基準なのか?ロシャールは「ノー」と首を振った。勧告の数字は「それ以下なら安全」という意味ではなく、移住や除染、食品の規制など、様々な対策をとるうえで、当事国の政府が判断するための目安(参考レベル)であるという考え方だ。しかも、その範囲内であっても、合理的にできる範囲で被曝を減らす努力を続け、最終的には1ミリシーベルト以下を目指すことが「不可欠」とされている。
 
こうした枠組みをつくった理由について、ロシャールは「事故後もその地域で生活を続ける個人の意思や尊厳、自由を尊重する哲学が背景にある」と話した。彼は、86年のチェルノブイリ原発事故後、高濃度の放射性物質で汚染された地域に何度も足を運んだ。その土地にとどまることを選んだ人々が何を求め、何が必要か、現地の人と同じものを食べながら考えたという。
 
日本政府が計画的避難区域の基準を年間20ミリシーベルトにしたことについて、ロシャールは「アンビシャスゴール(野心的な目標)だ」と評価した。「原発をコントロールできていない今はまだ緊急時。その段階としてはリスクを最小にするラインをとった」と考えるからだ。
 
ただ、日本政府はいまがどういう状況か、それがいつまで続きそうかという認識をはっきりさせていない。原発周辺は緊急事態が続くが、復興段階の地域もあり、「境目の20ミリシーベルトをとることに意味がある」(政府関係者)という。

 では、この水準での健康へのリスクを、ICRPはどうみているのか。
長い期間かけて累計100ミリシーベルトの放射線を浴びた場合、将来的に致死性のがん・白血病になる確率が0.5%増える、というのがその答えだ。1000人の集団ならばがんでの死者が5人増えるという意味になる。がんになった場合の平均余命の損失は、平均13〜20年程度とも見込む。

 被曝量と発がんリスクは、ほぼ直線的に比例するという見方もとっている。累積200ミリシーベルトなら発がんリスクは1%。逆に20ミリシーベルトならば0.1%、つまり「1000人に1人」になる計算だ。

 ただ、100ミリシーベルト以下の「低線量被曝」については、他の要因による発がんに比べリスクが小さくなるため確かなことはいえず、比例関係が続くというのは対策をとるうえでの「仮説」だ。
 
 一方、「発がん確率は低線量になると直線的には下がらない」としてリスクをより大きく見る主張もあれば、逆に「ある数値(しきい値)以下ならリスクがなくなる」との見解もある。ICRPは前者について否定的な立場をとりつつ、後者の証拠もないとしている。
 
パリであった2人に聞いてみた。「ゼロリスクではない」としながらも、低線量の世界は「ブラックボックス」「ミステリー」という答えだった。(梶原みずほ)
目指せ塩分1日6グラム「3ステップ減塩法」
「血圧がやや高めと言われたら、減塩が重要です」と語るのは、高血圧の治療や予防に取り組む猿田享男さん。
血圧とは、心臓から送り出された血液が血管壁にぶつかる圧力のこと。血圧は、心臓がギュッと縮まって血液を押し出すときに最高になり、逆に心臓が弁を閉じ、血液を溜め込むときに最低となる。その血圧に、塩分はどう作用するのか。
 「体内の塩分は、過剰なら尿とともに排出されます。ところが、塩分の摂取量が多すぎたり、腎臓の異常で排出が悪いと、血液内の塩分が濃くなり、それを薄めようと水分が再吸収されて血液の全体量が増加します。すると、血管壁にかかる圧力が強まって、血圧が上がる。これが長く続くと全身の血液が傷つき、脳梗塞や心筋梗塞、腎臓病などを招きやすくなるのです」
 現在、日本人の1日の平均塩分摂取量は11~12g。一方、高血圧治療ガイドラインでは1日6g未満を推奨する。今のほぼ半分に抑えねばならないのだが、それは至難のワザだ。そこで、猿田さんは3段階で6g未満を目指す方法を提唱する。
 「まず、食品中の塩分を確認し、取り過ぎを自覚したら、塩分が多い食品は避けましょう。昼食の外食メニューを変えるだけでも、効果がありますよ」
 次は、日ごろの食品の摂り方を見直すこと。減塩調味料やだし、酸味などを上手に使って塩分をカットし、徐々に薄味に慣れる。そして味付けは表面だけにして、「蒸す」「茹でる」といった素材の味を引き出す調理法を多用しよう。
 「野菜や果物を豊富に摂り、歩くなどの運動や、減量も心がけてください。2~3か月で血圧は確実に下がります」

●減塩の3ステップ
?食品の塩分量を確認。塩分の多い食品を避ければ、少しずつ塩分は減る。まずは1か月で塩分1日10g目指す。

?すぐにできる塩分カットワザを実践。調味料は減塩しょうゆや酢、かんきつ類スパイスなどを活用。とんかつはソースをかけずにつけて食べる。ラーメン、そばの汁は飲まない。これで塩分は1日8gに。

?味付けは表面だけに。「蒸す」「茹でる」調理で素材の味を引き出し、あんかけなどで味を一点に絞るこれで1日6gも夢ではない。

[猿田享男(さるたたかお)慶応義塾大学名誉教授|医学博士。日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン」の作成委員長を務めた。専門は高血圧、腎臓病など。著書に『高血圧をコントロールするらくらくレシピ』(法研)ほか多数。]

〔(社)日本自動車連盟(JAF)月刊誌『JAFMate』2011年5月号 pp21〕
体内時計、がん予防・治療に
 人間の細胞には約24時間の時を刻む体内時計がある。この時計を制御する遺伝子に狂いが生じると、がんになりやすいとされる。山口大学と佐賀大学は体内時計の乱れを簡単に測定する方法を開発、がんの予防や治療に役立てる道を開いた。九州大学はがん細胞の増殖に関わるたんぱく質に着目した治療法の開発を進める。体内時計を利用した時間治療はがんの予防や治療に新境地を拓(ひら)く可能性を秘める。
 「1週間ごとに早番と遅番を繰り返す労働者の体内時計を調べたら、常に時差ぼけの状態になっていることがわかりました」。山口大学の明石真教授らは、ある工場で昼夜交代で働く労働者の体内時計の状態を調べ、こんな結果を得た。
 体内時計の状態を測定するため、頭髪の根元にある細胞を薬剤で溶かし、時計遺伝子の活動状況の指標になるメッセンジャーRNA(リボ核酸)の量を測る方法を開発。早番と夜番を1週間ごとに繰り返す人の体内時計のリズムを調べた。起床時間は約7時間早くなったり遅くなったりしていたのに対し、時計遺伝子の活動が最も活発になるピークは2時間程度しか前後に変化していなかった。
 交代勤務労働者などはがんになるリスクが高いという研究報告があるが、明石教授は「体内時計のリズムの乱れが原因であることが示唆される。体内時計を測定して時差ぼけにならないような交代制を組めば、がんになるリスクを低くできる」という。
 がん細胞が時間によってどう変わるかに注目した研究も進む。九州大学大学院薬学研究院の大戸茂弘教授らは、がん細胞の増殖にかかわるトランスフェリン受容体と呼ぶたんぱく質に約24時間のリズムがあり、c―mycというがん遺伝子が制御していることを突き止めた。
 結腸がんの細胞をネズミに移植してトランスフェリン受容体ががん細胞の表面に現れる量を測定したところ、夜の9時に最も多く現れることがわかった。大戸教授は「時計遺伝子に異常が起きて、がん遺伝子を目覚めさせ、トランスフェリン受容体が多く作られるようになるのではないか」と推測する。
 大戸教授らは、トランスフェリン受容体ががん細胞の表面で増えたり減ったりするリズムを指標にしたクロノドラッグデリバリー(時間薬物送達)システムという新しい抗がん剤の治療法を開発した。
 抗がん剤を脂質の膜で球状に包み込み、その表面にトランスフェリンをくっつけた薬剤を、午後9時にネズミに投与したところ、午前9時に投与したネズミより、がんの大きさが3割程度小さくなっていた。薬剤のがん細胞への取り込み量も午後9時に投与したネズミの方が多かった。「今後も動物実験を重ねて、時間薬物送達システムを使ったがん治療につなげたい」と大戸教授は話す。
 がんの時間治療をすでに始めた病院もある。横浜市立大学医学部付属病院では、がん細胞と正常細胞が増殖し始める時間のずれを利用した時間治療に取り組む。対象は進行性の大腸がんでがんが肝臓に転移し、手術できないほど大きくなった患者に限られる。
 太ももの動脈に細い管を入れて、肝臓に直接、抗がん剤を投与する。がん細胞が活発に活動し始める午後10時から5―FUとアイソボリンという2種類の抗がん剤の投与を始め、午前4時に投与量が最も多くなるようにし、午前10時まで肝臓に注入する。午後4時には別の抗がん剤シスプラチンを入れる。
 「正常細胞への影響が少なく副作用がほとんど出ないので抗がん剤の量を5日間で1・5倍に増やせ、切除可能な大きさまでがんを小さくできる」と同大医学部の田中邦哉准教授は説明する。
 横浜市大ではこれまで70人に時間治療を実施。56人が手術で肝臓のがんを切除することに成功した。「これまで救えなかったがん患者が、時間治療で救えるようになった意義は大きい」と同大医学部の遠藤格教授は強調する。
 体内時計の研究が進み、様々な時間薬物送達システムが開発されれば、様々ながんに対して副作用が少なく、より効果的な治療が実現できるようになるかもしれない。
(佐賀支局 西山彰彦)

●体内時計
 睡眠や血圧、体温などのリズムを約24時間の周期で制御する仕組み。リズムを刻む本体は目からの視神経が交差する脳内の視交叉(こうさ)上核にあるとされてきたが、体のすべての細胞にも存在することが最近、明らかになった。
 体内時計は光によって常にリセットされているが、不規則な生活などにより体内時計に乱れが生じると、睡眠障害や高血圧、糖尿病、がんなどにかかるリスクが高くなるとされる。体内時計は時計遺伝子が制御する。哺乳類の時計遺伝子は1997年に発見され、これまでBmal1やPeriod3など十数種類が見つかっている。

〔日本経済新聞日曜版 2011年2月27日号掲載記事〕
トランス脂肪酸 表示指針決定
 マーガリンなどに含まれ、過剰摂取すると動脈硬化などを引き起こすとされるトランス脂肪酸について、消費者庁は21日、食品事業者が任意で含有量を表示する際の指針をまとめた。同庁はこの指針をベースにトランス脂肪酸の表示を他の栄養成分とともに義務化する方針。義務化に先立ち、なるべく指針に沿った表示にすっるように関連の業界団体に要請する。
 指針によると、トランス脂肪酸の含有量を表示する際には、熱量やたんぱく質などの一般的な栄養表示のほか、脂質の一種で同じように心疾患につながる恐れがある飽和脂肪酸やコレステロールの含有量も合わせて表示する。
 食品100g(飲料水などは100ml)あたり0.3mg以上のトランス脂肪酸が含まれる場合は含有量を明示し、0.3mg未満の場合は含有量0g、または「ゼロ」「フリー」などと表示できる。
 指針自体に事業者への強制力や罰則はないが、仮に事業者が不適切な表示をすれば景品表示法違反になる可能性がある。
 トランス脂肪酸はマーガリンやショートニング、これらを原材料とする菓子パンやケーキなどの食品、揚げ物などに含まれており、米国や韓国などではすでに表示を義務付けている。

[日本経済新聞2011年2月22日号より]
「運動の効用、薬にも勝る」
 さまざまな病気の成り立ちを調べていくうち、習慣的に運動している人ほど病気になりにくいというデータが多いことに気付いた。運動で予防できるのは、がん、心臓病、脳卒中、認知症など数え上げればきりがない。どんな運動をすれば、健康で長生きができるのだろうか。
 脈拍数が少し増えるくらいの運動が基本になる。165から年齢を引き算した値を目標とする。50歳の人だと1分間の脈拍数が115回。ウォーキングが人気だが、脈拍数が上がらず、健康増進につながらない。
 「女性に運動を勧めると、「家事で十分疲れているから」という言葉がよく返ってくる。家事と健康の関係を具体的に調べたデータはないが、少なくとも家事で脈拍数が増えるということはないだろう。とすれば健康増進にはならない。「疲れること」と「運動」とはイコールではない。
 どんな種目がよいのだろうか。スポーツの種類と突然死(心臓まひ)との関係を調べたデータでは、種目による差が大きい。しかし、健康のための運動は競技とは異なり、あまり参考にならない。
 数々の大規模調査の結果をまとめると、健康のための運動は、種目にこだわる必要はない。「1日に30分程度」「週に3回以上」、何らかの運動をすることが間違いなく健康増進につながる。
 病気になったときや、手術のあとなども運動が回復を早める。
 手術を受けたあとは絶対安静というイメージが強いが、何日で退院するのがよいのか、実はよく分かっていない。この問題を考える上で興味深い調査が、米国で実施された。乳がんの手術を受けた人たちを無作為に2つのグループに分け、一方には術後2日目に退院してもらい、他方は7日目とし、健康状態を比べた。
 早く退院した人たちの方が傷が早く治り、自覚症状も少なくなっていた。退院後の医療費も、早く退院した人の方が安くすんだという。もし早過ぎる退院が体調に悪影響を及ぼしていたとすれば、治療費は増えていたはずだ。
 人間の体は、絶えず動き回っていることで健康が保てるようにできている。健やかなときも、病めるときも、運動は最新医療に勝ることをエビデンス(科学的根拠)が示している。

[新潟大学教授・岡田正彦 日本経済新聞2010年12月19日号より]
「栄養バランスは絶対条件」
 健康を保つための絶対条件は何だろうか。最新の医学情報を調べ尽くして行き着いた私の結論は「バランスのとれた栄養」と「日々の運動習慣」という当たり前のことだった。
 「栄養バランス」とはどんなものか、ポイントをまとめておこう。人間にとって欠かせない栄養素は、基本となる炭水化物、たんぱく質、脂肪(三大栄養素)に、ビタミン、ミネラル、水分を加えたものだ。このうちカロリーがあるのは三大栄養素だけ。
 カロリーとは、簡単にいえば、食品に火をつけて燃やした際、周囲の温度を上昇させるエネルギーのこと。もちろん包装紙など、人間が消化できないものはカロリー源にならない。体内では、化学反応によって食品のカロリーに相当するエネルギーが生まれる。たとえば体重60キロの人が事務作業をして1日過ごすために必要なカロリーは、仮にご飯だけでとろうとすると(コンビニの)梅干しおにぎり9~10個分にもなる。これでは量が多すぎて食べきれず、かつ栄養も偏ってしまう。
 では、どうすればいいのか。主食として梅干しおにぎりを2個食べている人は、焼いたさんま1尾(150グラム)に、納豆1パック(50グラム)を加えるとバランスがほどよくなる。さんまの代わりに豚ロース100グラムでもいい。この例をイメージしながら、自分に合った食材、量を選べばいい。
 これに十分な量の野菜と果物を加える。欧米の指針では、葉物野菜の場合、1日に味噌汁わんほどの器に5杯分以上が望ましいとされている。
 体質や病気の有無にかかわらず、塩分やコレステロールを減らすことも大切だ。塩分を減らすコツは、調味料をなるべく使わないこと。コレステロールが多い食品は鶏卵、肉の脂身、バター、鶏肉、もつなどと覚えておく。魚介類のコレステロールは問題ない。
 意外な落とし穴は乳製品だ。体にいい食品というイメージが強いが、成人にとっては動物性脂肪が多過ぎるため控え目にする。
 カロリー計算は必要ない。体重を時々量り、大きな変化がなければ適切ということになる。もし体重が月に2キロ以上変動していたら、食事の偏り、体調の異常などを自己点検する。
 これが病気を予防し、元気で長生きするための栄養バランスだ。

[新潟大学教授・岡田正彦 日本経済新聞2010年12月12日号より]
うつ病(4)
 うつ病は適切な治療をすれば治る病気です。治療には、仕事を休むなどの休養、抗うつ薬などの薬の服用、精神療法といった選択肢があります。大半は薬で治療をしますが、効きにくい人では薬と精神療法を併用することになります。
 うつ病は脳の健全な活動に必要な物質が足りなくなって起こります。抗うつ薬はこうした物質を正常な量に保つ働きをします。副作用の少ない新しい薬「SSRI」や「SNRI」を主に使います。治療だけでなく再発防止にも効果があり、最近では薬を服用する期間が長くなっています。
 薬は抗うつ薬のほかに睡眠薬や抗不安薬などを一緒に服用する場合もあります。ただ、抗うつ薬を2種類以上使っても、1種類と比べて効果がでるわけではありません。
 精神療法では、物事の考え方やとらえ方を変えていく「認知行動療法」が注目されています。ただ、この療法をできる医師や臨床心理士はまだ少ないという問題があります。精神療法受けても薬を併用することになります。
 治療でとくに重要なのが、主治医と患者との信頼関係です。医師とよく話し合い、患者自身が病気をよく理解して、薬の服用も納得したうえで、治療を進めていかなければなりません。

[上島国利・国際医療福祉大学教授 日本経済新聞2010年11月28日号より]
「市販ぬり薬、成分で用途様々」
 市販薬の使い方を知っていると、いざというときに役立つ。ぬり薬もその一つだ。
 ぬり薬は鉱物油、植物油などの油性成分(基剤)に薬用成分を練り混ぜたもの。油性成分の代わりに水分、乳化剤などを多くしていくと、割合に応じてジェル、クリーム、ローションなどになる。
 薬用成分によって、さまざまな用途があるが、その1つが「かゆみ止め」だ。炎症を抑える成分、アレルギーの薬、殺菌薬、清涼剤などを配合した製品が多い。ごく少量のホルモン剤や表面麻酔薬を加えたものもある。虫刺され、湿疹(しっしん)などによるかゆみを一時的にスッキリさせる。
 市販のぬり薬に含まれる薬用成分で、最も作用が強いのは「ステロイドホルモン」だ。よく効くが副作用も強く、何かと話題になる。強さの異なるものがいく種類かある。湿疹、虫刺され、軽い火傷などに効果を発揮する。
 ステロイドホルモンを市販薬に配合することには賛否両論ある。少量で短期間の使用に限れば、健康な人の皮膚からの吸収はほとんどなく、副作用の心配もない。
 ぬり薬で安心して使えるのは「白色ワセリン」と「グリセリン」。どちらも薬用成分を含まず、多くのぬり薬で基剤として使われている。日本薬局方(国が定めた薬の規格書)に載っている名称で、商品名ではない。
 白色ワセリンは鉱物油で、皮膚を乾燥から防ぐ効果が期待できる。湿疹、おむつかぶれ、小さなケガや火傷などに使える。皮膚が傷つくと、さまざまな細胞が集まり、ホルモンのような物質を分泌しながら修復を始める。このとき、皮膚が乾燥したり、こすられたりすると、回復が遅れることになるが、白色ワセリンは、それを防ぐ。
 ただし、内服薬として大量に飲んで副作用を起こしたケースもあり、口内や鼻の中には使わないように。まれに、アレルギー反応を起こす人もいる。
 グリセリンは市販品の多くが植物性で、さらに安心だ。甘みのあるトロリとした液体で、水分を吸収する性質が強い。なめても問題なく、唇のひび割れなどに使える。
 皮膚には、病気から身を守る自然力が備わっている。薬はなるべく使わないほうがいいが、ときに効果を発揮する。

[新潟大学教授・岡田正彦 日本経済新聞2010年11月28日号より]
「コレステロールは高めが長生き」
 日本脂質栄養学会が9月に発表した「長寿のためのコレステロールガイドライン」は、コレステロールを下げることに躍起な医療現場の“常識”からすれば、確かに挑発的な内容だった。
「コレステロールを下げても、(心筋梗塞などの)冠動脈疾患など動脈硬化症を予防する効果はない」
「コレステロールは基準値より高めが長生き」
 このガイドラインに慌てたのが、その基準値をつくっている日本動脈硬化学会だ。同学会は10月14日、「科学的根拠なく、必要な患者の治療を否定するような『ガイドライン』を断じて容認することはできないことを表明する」と、北徹理事長名で反論声明を発表。同20日には、日本医師会の原中勝征会長と、日本医学会の高久史麿会長まで引っ張りだして、会見でこう批判した。
「薬を飲むのをやめた人もいると聞く。国民や患者を混乱させるもので、看過できない」
「脳梗塞や心筋梗塞と、LDLコレステロールが関係しているのは、世界的に知られていることだ」
 これに対し、日本脂質栄養学会理事長で、富山大学和漢医薬学総合研究所の浜崎智仁教授は、こう反論する。
「そもそも動脈硬化学会のガイドラインに対して、科学的根拠に欠けると厳しく指摘してきたのは私たちのほうです。それを議論もせずに、一方的に『科学的根拠がない』『患者を混乱させる』と責めるのはおかしい。LDLコレステロール値を下げれば、動脈硬化症を防げるかというと、最近は極めて怪しくなってきたのです」
 コレステロールについては、日本動脈硬化学会が1997年に、総コレステロール値が基準値以上になると、「高コレステロール血症(高脂血症)」と診断するガイドラインを作成。動脈硬化症を誘発するとして、数値を下げるよう推奨してきた。
 その後、改訂を重ねて2007年、コレステロールのうち、「悪玉」とされるLDLコレステロールなどを基準とする「脂質異常の診断基準」に変わったが、食事指導などでも改善されない場合、薬物の投与が考慮されるのは、今も同じだ。
 この問題では、本誌はかつて何度となく、日本動脈硬化学会が定めるコレステロール基準値は低すぎ、不必要な薬物投与を誘発しているのではないかと報じてきた。
 LDLコレステロールの基準値は、血清1デシリットルあたり140ミリグラム、総コレステロール値では220ミリグラム。だが、この基準値だと、中高年男性の3割以上、閉経後の女性の半数以上が高脂血症と診断されてしまいかねない。
 医療現場では、基準値を超えれば、食事療法などでの改善を待たずに、服薬をすすめる医師がいるのも現実だ。スタチン類などのコレステロール低下薬は年間約3千億円もの市場規模で、年々増える傾向がある。
 「ところが、女性はスタチンを使ってコレステロールを下げても、予防や治療の効果はありません。以前から欧米では、女性にあまり投与はされていないのです。それが日本では、実質的に基準値に性差がないため、スタチンの売り上げの6割を女性が占めています。さすがに動脈硬化学会も、2年後のガイドライン改訂に合わせ、性差を考慮して見直す意向を示してはいますが、先延ばしにせず、すぐ改訂すべきでしょう。その間、無駄に医療費がかかり、副作用の危険にさらされる女性が大勢いるんです。さらに男女問わず、最近の研究から、コレステロール低下の治療効果が実質的にないことが明らかになってきました。」(浜崎教授)
 米国で04年、大手製薬会社が、隠蔽したとして、自主回収のスキャンダルに発展したのを機に、欧州では臨床試験に関する新しい法律が成立した。この結果、ネガティブなデータの公表も義務付けられるなどした、論文の客観性が向上した、と浜崎教授は指摘する。
 「過去5年、海外で発表された研究で、高脂血症の患者に対するコレステロール低下薬の有効性を示すデータは一つもありません。確かにそれ以前には多くありますが、よく調べてみると、医師の主観が入ったり、手法に問題があったりと、信憑性に欠けるものでした。また、97年の動脈硬化学会のガイドラインでは、統計的に都合のよいように処理した図があるのに、その後も訂正するとは発表されていません。冠動脈疾患の死亡リスクが通常の人より高めな先天的な疾患を抱える人のデータがきわめて多く含まれたりもしていました。こういうデータを普通の人にも適用することには、無理があります」

 しかし、日本動脈硬化学会は、日本脂質栄養学会が引用する論文こそ、複数の研究者が検証する「査読」を受けていないとして、「科学的根拠に乏しい」と批判している。
 「一流雑誌に載っているからと言って、本当に正しいのでしょうか。世界的に権威がある米医学専門雑誌の名誉編集責任者が04年、製薬会社と研究者の癒着を暴いた論文を発表するなど、論文の質は、特定の製薬会社の影響を受けない方向へ流れが変わってきました。ところが日本では、情報開示すら進んでいないのです」(同)
 本誌は08年3月、独自調査によって、コレステロール基準の作成時の日本動脈硬化学会の重鎮らが、コレステロール低下薬を製造・販売する製薬会社から、研究目的で多額の寄付金を受けていることを指摘した。
 このとき、当事者らは、「製薬会社からの寄付金がガイドライン作成に影響したはいない」と回答したが、こうしたネガティブなデータも客観性を期すため積極的に公開すべきだろう。
 浜崎教授に言わせれば、「動脈硬化学会が反論声明に引用している論文も、大部分が04年以前のデータなので、信用できません」となる。
 「そもそも、疫学研究でみると、動脈硬化学会が利用している論文ですら、最も死亡率が低いのは総コレステロールが240から259の層で、基準値より20以上高い。コレステロールが高めの層がいちばん長寿なのに、わざわざ下げる意味はあるのでしょうか。私たちのガイドラインは、総死亡率を重要な指標と考えています。そこからわかるのは、コレステロールが高めのほうが、長生きだったという事実です。『コレステロールは下げるもの』という思い込みは捨てて考えてみると、実に単純なことです」(同)
 日本脂質栄養学会では今後、日本動脈硬化学会などの「反論声明」への反論を発表するなど、積極的に議論を展開する予定だ。

( 週刊朝日2010年11月19日号より 記事:関百合子)
うつ病(3)
 うつ病は主に問診で診断します。精神科や心療内科を受診すると、症状、始まった時期、生活や環境の変化について、医師が質問をします。治療方針を決めるためにも重要なので、隠さずにできるだけ正直に答えてください。
 うつ病を診断する際に医師が使うのが「DSM-IV(4)」といった国際的な診断基準です。ただ、診断は難しく、基準に当てはまらなくても実際にうつ病といわれる人はたくさんいます。
 最近、仕事だと憂うつになるが、遊びになると元気が出るような、「新型うつ病」と呼ぶ人が増えているようです。周りの人が「本当に病気なのだろうか」と、疑ってしまうケースもあるようです。新型うつ病では、自己愛が強く未熟な性格が影響するといわれていますが、診断基準を満たしたうつ病の治療でよくなるケースもあるため、きちんと受診して治療しなければなりません。
 うつ症状があるといっても、うつ病ではなく、よく似たほかの病気もいくつかあります。きちんと区別することが大切です。
 そううつ病ではうつ状態とそう状態が交互に表れます。統合失調症は若い時に発症し妄想や幻覚に悩まされる病気ですが、意欲が低下し無関心で憂うつになるといったうつ病と似た状態になる時期があります。高齢者では認知症と間違えやすい場合もあります。

[上島国利・国際医療福祉大学教授 日本経済新聞2010年11月21日号より]
「胃腸の病気、市販薬使い分け」
 おなかの具合が悪くなった経験は誰にもあるだろう。胃腸の病気には炎症、潰瘍(かいよう)ポリープ、がんなどいろいろある。原因、症状、市販薬の使い方などをまとめておこう。
 胃と腸では症状が異なる。胃で多いのは、もたれ、胸焼け、吐き気、胃痛など。原因はストレス、不規則な食生活、飲みすぎ、喫煙、薬の副作用などだ。胃酸過多という体質も関係する。原因が思い当たる場合はまず、自分で解消に努める。
 もたれ、胸焼けなどの症状には、消化酵素と胃酸を抑える薬(重曹)がよく効く。市販の総合胃腸薬に配合されており、比較的安心して使える。吐き気に効く成分などが配合した薬もある。
 胃痛には、粘膜保護材や胃酸分泌を抑える成分などが配合された薬を選ぶ。病院で使われている成分を配合した総合胃腸薬も多い。
 強く痛みが続くなら、胃かいようの可能性もある。原因の大部分が痛み止め(消炎鎮痛薬)の副作用からピロリ菌感染のいずれかであることが分かってきた。とくに消炎鎮痛薬は要注意だ。思い当たる原因があれば自分で対処すべきだが、症状が長引く場合は、検査を受けなければならない。
 腸に異常があると腹痛、下痢などの症状になりやすい。原因はさまざまで、風邪、ストレス、食中毒、食物アレルギーなどが多い。
 腹痛の原因は症状だけでは特定できない。軽ければ、総合胃腸薬に含まれる成分、たとえばロートエキスの効果が期待できる。ただ、体質によっては使えない。
 下痢は原因となった細菌や食物を体外に排出するために必要な反応で、無理に止めないほうがいい。ただし2日以上続くと体力が消耗するため、薬を使う。昔から使われてきた下痢止めの成分が多数あり、市販の総合胃腸薬や下痢止め薬に配合されている。
 下痢とともに腹痛、嘔吐(おうと)などがあるときは食中毒も考えられる。原因となるものを口にしてから、早い場合で1〜3時間後に症状が出る。2日くらいたって発症することもある。食中毒の多くは数日で自然に治る。絶食などはせず、消化のよいものを少しずつ食べていく。症状が自分だけであれば、食物アレルギーの可能性もある。
 何種類かの市販薬を家庭に常備しておくとよい。初めて使うときは添付文書をよく読み、薬剤師に聞くことが大切だ。

[新潟大学教授・岡田正彦 日本経済新聞2010年11月21日号より]
うつ病(2)
うつ病の発症は、仕事の失敗や転勤、病気、家族の不和、金銭問題といったストレスが引き金になりますが、根本的な原因というわけではありません。同じストレスであってもうつ病になる人とならない人がいるのは、生まれもった遺伝子などの素質の影響が強くあるためと考えられています。
 「まじめで完ぺき主義」「悲観的になりがち」「思ったことを口に出せない」「他人の評価が気になる」といった性格の人はうつ病になりやすいといわれています。日ごろからストレスをためすぎないようにしましょう。
 うつ病は早期発見し、きちんとした医療機関で治療すれば治る病気です。ただ、気づくのが遅かったり、放っておいたりすると悪化します。
 早く気付くには、いくつかある兆候を見逃さないことです。人と会うことや外出がおっくうになったり、以前は関心があったことや好きだったことに興味がなくなったりすると、「黄信号」といえます。
 うつ病を疑ったら、精神科や心療内科を受診するといいでしょう。肩こりや頭痛などの症状が出るため、体の病気と勘違いすることもあります。例えば、肩こりがひどく整形外科で診てもらっても何もないところがない場合、気分が憂うつなら精神科を一度受診してみてください。

[上島国利・国際医療福祉大学教授 日本経済新聞2010年11月14日号より]
「風邪薬の効果は限定的」
 突然の風邪症状で困った経験は誰にもあるだろう。そんなとき、どうすればいいのか考えてみよう。
 風邪の症状には、のどの痛み、鼻水、発熱、だるさ、せき、胃腸障害などいろいろある。原因はウイルスで、人間の細胞に寄生して、これらの症状を引き起こす。ウイルスは口や鼻から体内に入るため、最初に現れる症状がのどの痛みや鼻水となる。体の奥深くに侵入すれば発熱、だるさ、せき、胃腸障害などが加わる。
 市販の風邪薬(総合感冒薬)には、これらの症状に合わせて解熱薬、抗ヒスタミン薬、せき止めなどの成分が配合されている。
 解熱薬には世界標準ともいえる成分がいくつかあり、多くの総合感冒薬に配合されている。1つは、発熱物質の作用を抑える「イブプロフェン」。胃痛などを起こさないよう食後に飲むのが原則。もう1つは脳に直接働いて熱を下げる「アセトアミノフェン」。胃腸に優しく、悪寒などがなければ寝る前でも使える。
 ただ、韓国の研究者が9つの大規模調査データを集計したところ、これらの成分に風邪を早く治す効果は認められなかったそうだ。解熱薬の効果は、あくまで一時的なものといえる。
 抗ヒスタミン薬が配合されているのは、鼻炎などのアレルギー症状を抑えるためとされている。しかし、米国の調査では、薬を数日間飲んでも症状が早く消えることはなかった。
 インフルエンザに効くとして有名になった薬には、熱を1日早く下げる効果がある。しかし海外の大規模調査では、飲んでも飲まなくとも、重症化(入院)する割合に違いがなかった。
 体内では、風邪のウイルスが侵入すると、病気を治す仕組みが働きだす。たとえば発熱物質が分泌され、体温を上昇させる。高温に弱いウイルスを撃退するための仕組みだ。せき、たん、鼻水、くしゃみは、異物を体外に排出し、炎症で傷んだ細胞を修復する。総合感冒薬は、これらの大切な生体反応を止めてしまう。
 風邪は、薬でなく、十分な休養と栄養補給で治すのが基本だ。例外的に薬が必要なのは、高熱が続いたとき。睡眠がとれず、食欲も低下し、体力が落ちてしまう。このようなときこそ、解熱薬が頼りになる。
 市販薬の服用は3日以内を目安とする。持病や薬物アレルギーがある人は自己判断しないことだ。

[新潟大学教授・岡田正彦 日本経済新聞2010年11月14日号より]
うつ病(1)
 仕事で失敗をしたときや、失恋をしたときなど、だれでも落ち込んだり憂うつになったりすることはよくあります。普通は時間がたつとよくなるのですが、落ち込みが続き元気が戻らない状態を「うつ状態」と呼びます。このひどい落ち込みが2週間以上ずっと続く場合は、うつ病の可能性があります。
 うつ病になると、何もする気がせずに、自殺を考えるようにもなります。朝起きたら新聞を読むといった、無理なくこなしてきた習慣もできなくなることすらあります。また、めまいや肩こりといった体の変調も出てきます。不眠もつらい症状の一つです。
 うつ病は心の病気でなく、脳の病気です。脳で神経細胞同士の情報のやりとりをしている物質の働きが悪くなるのが主な原因といわれています。脳内の情報伝達がうまくいかなくなり、気分が沈むといった症状が出るようです。
 厚生労働省の調べでは、うつ病と診断される人はここ10年、増え続けています。ストレス社会の産物ともいわれますが、製薬会社などの啓発でうつ病を知る人が増え、比較的身近な病気になってきたのも患者増の一因でしょう。また、心療内科や精神科の診療所が増えて受診がしやすくなったり、うつ病を診断できる総合医が増えたりしたためとみられています。

[上島国利・国際医療福祉大学教授 日本経済新聞2010年11月7日号より]
「市販薬 飲み続けるのは要注意」
 日本人は薬好き、とよくいわれる。しかし、経済協力開発機構によれば、国民1人当たり薬にかけるお金が最も多いのは米国で、ギリシャ、カナダ、アイルランドと続き、日本は8位。総医療費でみても、米国の半分に満たない。薬にかける人々の期待は万国共通だ。
 規制緩和で薬局・薬店で自由に買える薬が増えてきた。医師の処方せんを必要とした薬の一部も、市販薬(正しくは一般医薬品)として買えるようになっている。その分、自己責任によるところが大きく、効果や副作用への正しい知識が求められている。
 薬は服用したあと血液中に入り全身を巡る。たとえば、痛み止め(鎮痛薬)は、痛みの神経に働いて効果を発揮するが、それ以外の部位にも何らかの作用をする。このような作用のうち、体にとって不都合なものを副作用と呼ぶ。胃腸障害や肝臓障害、アレルギー反応などが代表的な副作用だ。
 副作用の多くは、薬の服用をやめるだけで自然に回復する。しかし、ときに命にかかわる事態にいたることもある。外国製のやせ薬で重い肝臓障害を起こし、死亡したという人のニュースが相次いだこともあった。アレルギー反応も予測が難しく、かつ少量でも起こるため要注意だ。
 市販の鎮痛・解熱薬を長く飲み続けると、思わぬ副作用が生じることも分かってきた。
 スウェーデン、米国などで鎮痛・解熱薬に関する興味深い大規模調査が実施された。生涯にわたって服用した総量と腎臓病との関係を調べたもので、分析の結果、鎮痛・解熱薬を500g以上服用した人は、慢性の腎臓病になる割合が3.3倍になることが分かった。標準の服用量をもとに計算すると、400〜500日分に相当する。
 ただし、服用量と腎臓病との間に因果関係は認められなかったとする報告もあり、結論は下せない。評価が分かれてしまうのは、市販薬が自覚症状のあるときだけ使うもので、連用するとどうなるかの調査が難しいためだ。
 一方、鎮痛・解熱薬を10日以上飲み続けると、薬によっては、過半数の人に胃炎や胃かいようが生じるとの確かなデータもある。
 市販薬は、正しい知識で上手に使えば役立つこともあるが、安易に連用すべきでない。

[新潟大学教授・岡田正彦 日本経済新聞2010年11月7日号より]
「トランス脂肪酸 とり過ぎないで」
 たくさんとると、動脈硬化のリスクが高まるとされる「トランス脂肪酸」。だが、どの食品にどれだけ含まれているか、表示がないため分からない。
 11月から、消費者庁で表示についての検討が始まるが、決まるのはまだ先。今できる、とり過ぎないためのコツは?スーパーで買った食品類を手に、専門家を訪ねた。

 話を聞いたのは、東大大学院の佐々木敏教授(社会予防疫学)。昨年12月、都市部の30、40代女性にトランス脂肪酸をたくさんとる人が多い、という調査報告をした研究班の中心メンバーだ。
 世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)はトランス脂肪酸を「1日の総カロリーの1%未満に抑えること」を勧めているが、調査では、30代女性の33%、40代女性の38%がこの目安を超えていた。お菓子の影響が疑われるという。
 買い込んだ食品をテーブルに広げると、佐々木教授からまず質問が。「商品の何を見て買いましたか?」
 買うときに気をつけたのは、包装に表示された「原材料欄」。含有量の多い順に表示されるので、最初のほうに「ショートニング」や「植物油脂」があれば、トランス脂肪酸も多いだろう、と思った。
 「いや、一番見てほしかったのは、『栄養成分表示』の『脂質』の欄なんですよ」。包装によくある〈エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム〉の量を記した表のことだ。買ってきたビスケットとクッキーの箱の表示を見比べると、1枚当たりの脂質はビスケット0.6g、クッキー2.3g。トランス脂肪酸も脂質の一部なので、ビスケットのほうがトランス脂肪酸が少ないと「推測」ができる。
 WHOが示すトランス脂肪酸の摂取の目安「総カロリーの1%未満」を量に換算すると、通勤や買い物で多少体を動かすような暮らし方の成人男性は1日2.7〜2.9gほど、成人女性は同2.2gほどになる。
 買ってきたクッキー1枚の脂質は2.3gあったが、脂質がすべてトランス脂肪酸というわけではない。「結局、今の表示制度では、トランス脂肪酸がどの程度含まれているかを、きっちり読み取れないのです」
 現状では、トランス脂肪酸の1日の摂取目安量と表の数値を参考に、多いと思う食品を控えることだ。
 さらに、佐々木教授からはこんな注意も。「トランス脂肪酸だけにとらわれないで」
 たとえば、買ったバターの原材料は「生乳、食塩」のみ。マーガリンのように植物油脂の加工品ではないのでトランス脂肪酸は少ないはず。そう思っていたが、「飽和脂肪酸については、バターはマーガリンに比べて多いんですよ」。心筋梗塞や動脈硬化のリスクを高めるのは、実はトランス脂肪酸だけではない。同じ資質に含まれる飽和脂肪酸も要注意なのだ。
 厚生労働省の「食事摂取基準」を調べると、1日にとるべき脂質の量は、男性で54〜88g、女性は43〜67gほど。
 「もっとも大事なのは栄養についての正しい知識」と佐々木教授。同じ食品を食べ続けるなどの偏った食生活をしない、といった基本が肝心だ。

◇リスク明確 表示義務化へ議論
 「1%未満」の目安は、03年にWHOとFAOが示したものだが、昨年、両機関は合同報告書で、たくさんとる人のことも考え、目安を見直す必要があるかもしれない、との考えを示した。トランス脂肪酸の悪影響が、近年の研究ではっきりしてきたことが背景にある。
 悪玉コレステロールを増やすことは分かっていたが、この報告書では、冠動脈性心疾患のリスクを高めるのは「確証的」とし、メタボリックシンドロームの要素である内臓脂肪や高血圧、高血糖のほか、糖尿病のリスクを高めるのも「ほとんど確実な証拠がある」と踏み込んだ。
 ミスタードーナッツや日本マクドナルドなど外食産業でも、トランス脂肪酸が海外で問題となった07年ごろから含有量を減らす動きが相次いでいる。含有量をホームページなどで公表する食品会社も増えている。
 消費者庁は11月から、食品の「栄養成分表示」をメーカー任せではなく義務化する方向で検討を始める。WHO報告や佐々木教授らの研究などを踏まえ、トランス脂肪酸も対象にすべきかどうかも話し合う。

◆『トランス脂肪酸』
 油脂の構成成分の一種。菓子やパンづくりに使われるショートニングや、マーガリンをつくる際、液体状の植物油に水素を加えて固形化する工程などで生成される。食品安全委員会は、日本人の摂取量は1日平均0.7〜1.3gとし、1日の総カロリーの0.3〜0.6%ほどだと推計。「諸外国に比べて低レベルで影響は小さい」としたが、若い人の摂取量が増えていると見て調査を続けている。

[朝日新聞10月30日号より]

コレステロール 高い方が長生き?
 コレステロールを巡って専門家の間で論争が起きている。ある学会が「高い方が長生きする」という、これまでの医学の「常識」と真っ向から対立する見解を、ガイドライン(指針)として公表したからだ。生活習慣病予防の観点から、コレステロールは悪者扱いされることが多い。本当に高くても放っておいて大丈夫なのか。

◆2学会が対立

 論争の引き金になったのは9月初旬に愛知県犬山市で開催された日本脂質栄養学会大会だった。

 「コレステロールの摂取量を増やしても、血液中のコレステロール値は上がらない」「特別なケースを除き、動脈硬化による疾患の予防にスタチン類(コレステロール値を下げる薬)の使用は不適切」――。

 同大会で公表された「長寿のためのコレステロールガイドライン」は、健康維持への適正な基準値を具体的な数字で示しはしなかったが、「高いよりも低い方が健康によくない」とした。現在、脂質異常症(高脂血症)の治療の目安として広く利用されている日本動脈硬化学会の指針(2007年版)をほぼ全否定する内容だった。
 新しい指針の内容が一部のメディアで報じられ、医療現場では混乱が起きた。ある開業医は「コレステロールがとても高い患者から、スタチン類をもう飲まなくてもいいのでは、と質問され、困っている」とこぼす。
 新指針の根拠になっているのがいくつかの疫学調査だ。例えば、神奈川県伊勢原市の男女約2万6千人(男性平均年齢64.9歳、女性同61.8歳)を約8年間追跡した調査では、男性の場合、悪玉(LDL)コレステロール値が100未満(ミリグラム/デシリットル)の集団で肺炎やがんでの死亡が増え、総死亡率が大きく上昇した。女性では高い値でも総死亡率の上昇はみられなかった。
 この疫学調査を主導し、新指針の策定メンバーの1人でもある東海大学医学部の大櫛陽一教授は「日本では総死亡に占める(虚血性)心疾患の割合は7%で米国よりかなり低い。LDL値140以上を脂質異常症とする07年版指針は心臓病リスクからはじき出した数字で、高いから長生きできないというのはおかしい」と言い切る。

◆「根拠欠く」と反論

 動脈硬化学会は今月14日、反論の声明文を発表した。「脂質栄養学会の委員会が公表した指針は、根拠としている論文が研究者の精査を経ておらず、科学性が担保されていない」という。根拠を欠く指針は「指針に値しない」という立場だ。
 論争は平行線だが、気になるのは、コレステロールが高いと薬を使ってでもすぐに下げる必要があるかどうかだ。
 高いからといって、それだけでは「病気」とはいえない。高血圧や高血糖、喫煙や飲酒の有無などが複雑に重なり、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中、がんなどの発症リスクはあがる。こうした生活習慣病予防のため、脂質異常症という病気がある。
 一度、狭心症などを患った人がLDL値140以上の状態を放っておくのは問題といえるが、健康診断や人間ドックでこの値を一度超えたからといって、ほかに目立った異常がなければ大騒ぎする必要もなさそうだ。
 07年版指針を策定した帝京大学の寺本民生・内科主任教授は「コレステロールが高くていいはずはない」と前置きをした上で、「臨床現場にいると不要なスタチン類投与も見受けられる。LDL値140以上で脂質異常症の診断がつくが、この数字が薬物治療開始の基準ではない。生活習慣を改めてもらうのが先決だ」と話す。
 薬の効果を調べるための臨床試験では、製薬会社の意向をくんで統計の解析に恣意(しい)的な操作が加えられることもあるとされる。
 医学研究の客観性を評価する目的で今春発足した「臨床研究適正評価教育機構(J―CLEAR)」の桑島巌理事長(東京都健康長寿医療センター副院長)は「コレステロールにはよい面と悪い面とがある。一律の基準値だと必要のない治療を促しかねない。患者なのか健康な人なのかによっても適正な値は変わってくるだろう」と話す。

[日本経済新聞朝刊 2010年10月24日より]

フードファディズム(4)
 健康食品は食品の機能的側面を強調するあまり、フードファディズム(偏狂的な食生活)的側面がとても強いといえます。味や香り、おいしさではなく、健康食品と呼ぶようですが、食品の範疇に含めていいのかとても疑問です。「健康期待摂取品」に改称するよう、以前から主張してきました。
 健康食品にはいくつも問題があります。有害物質や医薬品成分を含むものがまれに見つかります。野菜や果物に含まれる成分であっても、健康食品として一定の期間に大量に摂取すると、予想もしない有害作用がでてしまうこともあります。無害無益なものを利用するのなら経済的な損失だけで済みますが、有害無益な製品だと摂取すればするほど健康を害します。
 食生活を改善したと錯覚させる点も看過できません。
 例えば、日本人の今の食生活では食物繊維が足りないとよく言われます。食物繊維不足だけが問題ではなく、野菜や豆類、海藻類の食べる量が少なくなり、食に偏りがあることを改めなければなりません。
 食物繊維にもいろいろ種類があります。ある特定の食物繊維だけが入った健康食品を一定量摂取して、数字上は食物繊維の不足は解消されても、本質的な問題は未解決のままです。
 健康食品で健康は買えません。

   高橋久仁子・群馬大学教授(出典:日本経済新聞2010年10月24日号より)

フードファディズム(3)
 ジャガイモには有害物質のソラニンが、100gあたり2〜10mg含まれています。ジャガイモ2kgを食べると中毒を起こすこともあります。コーヒーはカフェインを多く含み、一度に30〜100杯飲むと、カフェインが致死量に達します。だからといって、一度に2kgのジャガイモを食べたり、コーヒー100杯を飲んだりできません。
 食品Aに血圧を下げる物質Bが含まれるとしましょう。「Aを食べると血圧が下がる」という論になりがちですが、Aにどのくらいの割合でBが含まれているかが重要です。血圧が下がるほどの量のBを摂取するために、常識を超えた量のAを食べなければならないとすると、フードファディズム(偏狂的な食生活)といえます。
 食品会社などが商品をPRする際、「いかに体によいか」を前面に出すようになってきました。よく見落とされるのが、含有量や摂取頻度、摂取量です。この点を抜きに、体によいとされる効果だけを信じると、フードファディズムに陥ります。「体に悪影響を及ぼす」とされる物質についても、同じような配慮をしなければなりません。
 ビタミンやミネラルが豊富な食品を「よい食品」とし、砂糖や食塩、脂肪の多い食品を「悪い食品」と決めつける光景をよくみます
 「よい」ものだけを食べ、「悪い」ものを一切排除しても、健康な食生活にはなりません。

   高橋久仁子・群馬大学教授(出典:日本経済新聞2010年10月17日号より)

フードファディズム(2)
 食べ物は毒でもなければ薬でもない。この常識を知っておけば、誤った食情報に惑わされることはない。にもかかわらず、なぜフードファディズム(偏狂的な食生活)が生まれ、はびこるのでしょうか?
 飢えて生きていくにも困るような途上国にフードファディズムはありません。食糧自給率が低く危機的な日本ですが、世界各国から輸入品も含め、いろいろな食べ物があふれています。えり好みできる食環境が、フードファディズムに陥る環境を招きます。
 過剰なまでの健康志向も忘れてはいけません。日本は長寿国で長生きできて当たり前で、病気となると社会からの落伍者になったような気持ちになりやすい。健康増進法などもあり、いつまでも元気でなければならないと健康を強いられます。「健康のためなら死んでもいいの?」と皮肉りたくなるような、いびつな健康ブームです。
 行政や企業への不信感から、消費者は食に対して漠然とした不安をもっている点も見過ごせません。健康を害する食情報を取り上げた本がよく売れるのも、フードファディズムが広がる証と言えます。
 自分の力で考えることを嫌う風潮も気になります。テレビや雑誌で取り上げる食情報は誇張が多いのですが、「テレビで見た」「本に書いてあった」というだけで買いに走るようです。

   高橋久仁子・群馬大学教授(出典:日本経済新聞2010年10月10日号より)

フードファディズム(1)
  食べ物が健康に与える影響を過大に信奉したり評価することをフードファディズム(偏狂的な食生活)と呼びます。ある特定の食品を食べると生活習慣病が予防でき、短期間でダイエットができると吹聴され、店頭などからなくなってしまうほど流行する現象が典型的といえるでしょう。テレビ番組が仕掛けたことで、ココアや納豆、バナナや観点といった食材がこれまでブームになりました。
 フードファディズムによって、人々は些末(さまつ)な食の健康情報に踊らされてしまいます。その結果、日頃の食生活で一体何に気をつけなければいけないのか、その優先順を決められなくなります。時に食生活を混乱させて経済的な被害をもたらします。
 「これさえ食べておけば大丈夫」といったいわゆる健康への「マジックフーズ」など存在しません。逆に健康を害するような「悪魔フーズ」もありません。
 「自然・天然」「植物性」だと体によく、「人工」「動物性」だと体に悪いとする傾向が強いようですが、恐怖心をあおって高い商品を買わせようとする「不安便乗型ビジネス」の横行がこうした誤った認識を生み出しているといえます。
 たくさんの種類の食品を適量食べる重要性を無視するかのような食の情報には、フードファディズムが紛れ込んでいます。

  高橋久仁子・群馬大学教授(出典:日本経済新聞2010年10月3日号より)

セミナー受講者43名になりました!
先日紹介したウララセミナーの受講者が5名増えて43名になりました。
今月一杯受講者を募集していますので、希望される方は029−826−1728
県南学習センターまでお電話の上、ウララセミナー「健康生活習慣セミナー」
受講希望とお申込みください。
ウララセミナー始まります!
9月4日より、JR土浦駅前ウララビル5階の茨城県県南生涯学習センターにおいて、「健康生活習慣セミナー」を5回シリーズで開催します。すでに38名の受講生が集まっていますが、センターではまだ受入れ可能ということです。もし、受講されたい方は、茨城県県南生涯学習センター(0298-26-1101)にお電話して申し込みください。

日時とテーマ
 9月4日(土)14:00〜16:00 『生活習慣病と栄養』
10月2日(土)14:00〜16:00 『活性酸素とデトックス』
11月6日(土)14:00〜16:00 『睡眠とストレス』
12月4日(土)14:00〜16:00 『体温と免疫』
 1月8日(土)14:00〜16:00 『メディカルハーブの世界』

受講料 1,000円(5回分、テキスト代含む)

場所  茨城県南生涯学習センター 中講座室2

内容 ノーベル平和賞受賞者のシュバイツァー博士は「私たち一人ひとり自分の中に賢い医師を宿している」と語っています。『自己治癒力』を高め、病気にならない心と体をつくるため、日常で気軽に実践できる健康法を学びましょう!

講師 野本篤志
   NPO法人緑の風ヘルスサポートジャパン 代表理事
   ラポールの会(がん体験者とその家族の会) 代表
   日本メディカルハーブ協会認定 ハーバルセラピスト
   薬学博士 薬剤師
おいしい玄米の炊き方
本日(5月24日)つくばCASAにおいて第1回セ・ラ・ビの会健康生活習慣セミナー(生活習慣と栄養)を開催しました。セ・ラ・ビの会は、つくば地区の主婦を中心とした家族の健康を考える会で、32名の参加者がありました。セミナーでは、玄米・菜食・減塩の大切さを中心にお話しましたが、オリジナルの玄米を炊いて試食していただいたところとても食べやすくておいしいと好評でしたので、レシピを公開します。玄米はパサパサしてどうも苦手という方も一度是非試してみてください。

(1)下記を混ぜてきれいな水で研ぐ
  玄米(できればミルキークイーン)3カップ
  もち米の玄米1カップ
  五穀米(黒米の入っているもの)大さじ3杯

(2)圧力鍋に入れて水4と1/4カップと塩小さじ1杯を加え、12時間程置く。

(3)強火にかけて重りが回りだしたら1分待ち、弱火にして20分加熱する。

(4)火を止めて、15分むらしてからふたをあけ、ジャーに移して保温する。

これだけもちもちした食感のおいしい玄米が炊けます。私は、朝玄米を研いでおいて夜に炊くようにしています。できれば、できるだけ無農薬(無理なら減農薬)の玄米を選んでください。もち米の玄米はネット販売で入手可能ですが、どうしても手に入らない場合は、栄養価は落ちますが、もち米の白米でも代用は可能です。
花粉症モニター募集します
あちこちで梅の花がほころび始めるといよいよ花粉症のシーズン到来です。
NPO緑の風では、昔から薬膳料理の食材にも使われている「レンコン」に含まれる「免疫機能を調整する機能」を長年研究されてきた埼玉医科大学の和合先生と日本アレルギー研究所のご了解の下、昨年11名の花粉症患者さんに協力いただき、「乳酸菌レンコン食品」のモニター調査を行った結果多くの方の花粉症の症状が抑えられる結果が得られました(下記NPOモニター結果1〜4参照)
この結果は、埼玉医科大学の和合先生と日本アレルギー研究所が行った大規模な臨床調査(下記日本アレルギー協会調査結果参照)と同様の結果となりました。
そこで今年も花粉症モニターを募集します。花粉症でお悩みの多くの方の助けになれば幸甚です。詳しくは、お電話(050-1417-5964)でお問合せいただくか、HPの問合せページからメールにてお問合せください。

参考までに昨年2月12日に産経新聞に掲載された関連記事を掲載します。

「花粉症に効果! レンコンと乳酸菌の配合物を開発」

 医薬品メーカーの日本アレルギー応用研究所(埼玉県狭山市)と埼玉医科大の和合治久教授が、花粉症の緩和につながるという新配合物を開発した。レンコンの成分と乳酸菌との配合物で、27日から東京ビッグサイトで開催される「健康博覧会2008」で発表する。全国で1500万人ともいわれる“患者”には朗報となりそうだ。

 レンコンは漢方医学の分野でも止血作用や抗炎症作用などの効用があることが知られていた。レンコンに含まれるムチン、タンニン、ポリフェノールなどが大きな役割を果すという。

 そこで、和合教授らは全国一の出荷額を誇る茨城県産のレンコンに着目、5年以上にわたって研究を進めてきた。動物実験などから、レンコンの成分に抗アレルギー性効果と免疫活性化効果があることを突き止めた。

 レンコンの成分が、体内のアレルギー反応を増幅させるリンパ球の発生を抑え、結果として花粉症の原因となる抗体の発生を抑えるという。さらに、アレルギーを抑えることで知られる乳酸菌を加えることで、原因となる抗体を約1・2倍減らすことができ、相乗効果も期待できる。

 約620人を対象に臨床試験を実施し、開発した配合物を粉末にして、みそ汁やお茶などに入れて摂取してもらったところ、3カ月で81%の人に花粉症の症状の改善がみられた。日常的に摂取することで食生活の中で体質改善を行い、アレルギーの一種である花粉症を抑えることができるという。

 和合教授らは「これまでの治療法は一時的に特定の症状を緩和させる『対症療法』だったが、今回は体質改善治療で、副作用も全くない」と説明している。
目次
ホウ博士と健康アンケートの結果を読み解く
NPO緑の風の知恵袋「ふくろうのホウ博士」と「うさぎのみどり」「たぬきの風太」がみなさんを森の学校にご案内しま〜す!

その1 会員の健康に対する意識と健康維持・増進の取組み

 Q 『博士、土浦地区厚生年金受給者協会の会員のみなさんに協力いただいて行ったアンケート調査の結果がまとまったそうですね。』

 A 『そうなんじゃ、会員1015名のおよそ3分の1にあたる325名もの方から回答をいただけたんじゃ。ほんとうにありがたいことじゃよ。』

 Q 『それで博士、アンケートからどんなことがわかったんですか?』

 A 『まずわかったことは、自分自身の健康に気を使っている人が非常にたくさんいるということじゃ。具体的にはおよそ6割の人が「自分は健康だ」と思っておるが、その中でなんと7割近くの人が「健康の維持・増進の取組み」を実践しているようなんじゃ。』

 Q 『みんなどんな健康法をもっているんですか?』

 A 『一番多かったのは、歩くことで、なんと健康法を持っている206名中100名の人が歩くことを日課にしておった。そのほか、スポーツや運動や体操を日課にしている人も多かったし、食事に気をつけている人もたくさんおった。健康の基本はやはり「食事」「運動」「休養」を柱とした規則正しい生活なんじゃよ』

 Q 『それじゃ、皆さんの健康に対する意識や取組みは申し分のない結果だったんですね?』

 A 『そうなんじゃが、1つ気になることもあるんじゃ。自分が健康だと思っている人でも、「太り気味」、「血圧が高め」、「血糖が高め」など何らかの検査値の異常や自覚症状があると答えているんじゃ。逆に何の異常もないと答えた人は194人の中で53人だけなんじゃよ。』

その2 『未病』という考え方とその対処法

 Q 『でも日常生活には何の問題もないんでしょう?』

 A 『今はそうなんじゃがそういう人の多くは「未病」と言って病気と健康の間の状態にあるんじゃ。このまま放っておくと心筋梗塞や脳卒中など重篤な病気になるリスクがとても高いということじゃ』

 Q 『みんなかなり健康に気をつけているのにどうして未病になるの?』

 A 『現代は高齢化やストレス、生活の欧米化が進んでおるし、大気汚染、水質汚染など環境も悪化し、更には農薬、食品添加物、医薬品などが知らず知らず体内に蓄積してきておる。これらはすべて活性酸素を発生させたり自然治癒力を低下させる原因となるため未病が起こりやすくなっていると考えられておるんじゃ』

 Q 『博士、それじゃ、どうすればいいの?お医者さんでは治してくれないの?』

 A 『残念ながら現代西洋医学では病気と診断されてから始めて治療を施すため、自然治癒力を高めて未病を改善したり未病から病気への移行を防ぐよい手立ては持ち合わせておらんのじゃよ。』
 Q 『博士、何かいい方法はないんですか?』

 A 『世界各地で昔から伝わってきた伝統医学はいずれも、だれもが持っている自然治癒力を高めて病気から回復したり、病気を予防していたんじゃ。 たとえば西暦200年頃の中国の医学書『難経』に「上工(優れた医者)は未病を治し、中工(普通の医者) は已病( すでに発病した病気) を治す」とあるように、病気になる前に未然に病気を防ぐことが東洋医学のひとつの理想だったんじゃよ。』

 Q 『それじゃ西洋医学をやめて伝統医学に戻れということなんですか?』

 A 『いや、そうではない。現代西洋医学にも伝統医学(現代西洋医学以外を総称して代替療法という)にも得意・不得意があるんじゃ。』

ホウ博士と動脈硬化を読み解く
 Q 博士、うちのお父さんがお医者さんに「血中のコレステロール値が高いですね」って言われたらしいけど痛くもなんともないんだって。どうしてそんなに気にしなくてはいけないんですか?』

 A 確かに血中脂質が高くても本人は痛くも何ともないのでたいしたことがないと考えて惣しまうけど、放っておくと致命的な疾患である『心筋梗塞』などの『心疾患』や『脳卒中』などの『脳血管疾患』の原因である『動脈硬化』が進んでしまうんだよ。日本人の死亡原因はがんが第一位だけど『心疾患』と『脳血管疾患』を併せると死亡率はがんとほぼ同じじゃから十分気をつけなくてはいけない。


 Q そんな怖い病気の原因になっているなんて知らなかったわ。ところで動脈硬化っていう言葉は時々聞くけど、いったいどういうものなんですか?』

 A 動脈硬化とは、「動脈の壁に脂肪やカルシウムなどが沈着して厚く硬くなり、そのために内腔が狭くなって血液が通りにくくなった状態」をいうんじや。昔は高血圧によって脳の比較的細い動脈の繊維成分が増え、血管がもろくなって「脳出血」を起こす「細動脈硬化」が多かったけれど近年の生活習慣の欧米化にともなって、心臓や脳の比較的太い血管にできて「心筋梗塞」や「脳梗塞」の原因となる「粥状動脈硬化」が増えてきておる。


 Q よくわかりました。それで、「粥状動脈硬化」とは、どうやってできるんですか?

 A まず、登場人物から紹介しよう。下の表に6 人の登場人物と主な役割を書いておいたから読んでみてほしい。


 Q なんかすごく面白そうですね。まず何か起きるんですか?

 A まず、内臓脂肪が肥満すると「インスリン抵抗性」という状態になる(1) 。この状態になると血糖や血圧が上がってきたり(2) 、悪玉コレステロール(LDL) が増えるんじや(3) 。「インスリン抵抗性」の悪玉コレステロールは直径が小さくまた活性酸素で酸化されやすいのが特徴で、これが超悪玉コレステロール(変性LDL) へと変身するんじや。

 Q 超悪玉コレステロールの変性LDL はいったいどんな悪さをするんですか?

 A 変性LDLは粒子の直径が小さいから血管のバリヤーになっている内皮細胞の問を通って内膜と中膜の間に侵入するんじゃ(4)。特に血圧や血糖が高かったり喫煙などで活性酸素が発生すると内皮細胞がダメージを受けて細胞と細胞の開か広がってしまうので(5)よけい侵入しゃすくなるょうじゃ。


次に内膜の下に入り込んだ超悪玉コレステロールを異物とみなし今度は血中をパトロールしていた単球がアメーバーのように形を変えてマクロファージとなり内皮細胞の隙間をこじ開けて内膜の下にもぐりこんでくるんじや(6) 。そして超悪玉コレステロールをどんどん食べてぶくぶくに太った「泡沫細胞」になる(7) 。この細胞がどんどんふえてくるとそこに血管を構成する他の細胞なども集まっるため、傷の後のかさぶたのような粥腫( プラーク) という塊がどんどん大きくなって血管の内腔を狭くしてしまうんじや。


 Q ヘーっ。血管の中でこんなドラマティクな出来事が起こるなんてびっくり!
それで動脈硬化にならないためにはどんなことに気をつければいいの?

 A まず一番大切なことはおおもとの内臓脂肪が肥大化しないようにすることじゃ。そのためには、適度な運動を心がけ、暴飲暴食を臨むこと。また、動物脂肪の取り過ぎは、中性脂肪を上げるので蛋白はできるだけ魚に置き換えるといい。魚油に含まれるEPAやDHAは中性脂肪やコレステロールを下げるだけでなく、血栓を抑制する働きがあることが知られておる。また、運動、魚油ともに善玉コレステロール(HDL)も増やすのでまさに一石二鳥じゃな。

 Q 他にどんなことをすればいいんですか?
 A 活性酸素を発生するようなストレス、食品添加物、農薬、水道水(塩素) 、動物性脂肪、タバコをできるだけ避け、逆にそれを消去する働きのある食べ物をできるだけ摂るように心がけることじゃ。ただしあまりストイックにならず「いい加減」が「よい加減」と考えてできることを楽しみながら続けていければいいんじゃよ。
季節の手当箱(1)不眠
<はじめに>
猛暑の夏が過ぎ、さわやかで気持ちのいい季節になりました。寝苦しさから解放され、ゆっくりと睡眠を楽しみたいのに、
●どうしても寝つかれない(入眠困難)
●夜中に目が覚めて眠れなくなる(中途覚醒)
●7時に起きるつもりなのに5時に目が覚めてしまう(早朝覚醒)
●朝起きた時にぽーっとした感じですっきりしない(熟睡障害)
という方、意外に多いのではないでしょうか? 睡眠は毎日を健康に過ごすために欠かせない生活習慣の基本中の基本です。今回は気持ちよく眠るための工夫をわかりやすくお伝えします。


<なぜヒトは夜になると眠くなるの? >
睡眠のもっとも大切な役割は、身体の司令塔の「大脳」を休ませることです。そのため体内には精巧なしくみが用意されています。すなわち、朝起きて一定の時間大脳が働くと脳幹部の松果体というところから大脳に眠くなるよう合図が送られるのです。この合図が睡眠ホルモンの「メラトニン」という物質です。
「メラトニン」の生成に関しては次のようなことが知られています。
●太陽の光が目に入るとその刺激が脳内に伝えられ、松果体に「セロトニン」という物質が作られる。
●明るい間は「セロトニン」を「メラトニン」に変える酵素が抑制されているが、暗くなるとその抑制がはずれて「メラトニン」に変わる。
●加齢により「メラトニン」の分泌は減っていく。お年寄りに「夜中に目が覚めてしまう」「朝早く目覚め、昼に眠くなる」という人が多いのはそのためと考えられている。
したがって脳内の「セロトニン」や「メラトニン」、またそれらの材料となっているアミノ酸「トリプトファン」を増やす工夫をしてみましょう。これらを成分とするサプリメントを服用するのも効果的な方法です。

<眠るための工夫・その1>
(1) 規則正しい睡眠時間を取る
睡眠のリズムは体内時計(地球の自転に合わせたリズム) によってプログラムされています。
したがってできる限り同じ時間に睡眠が取れるようにすることが大切です。不規則な睡眠は、体内時計が遅れたり進んだりして睡眠のリズムを狂わせるもととなります。
(2) 早起きをする
朝日には本来25時間にセットされている体内時計を24時間にリセットして体のリズムを整える働きがあるので早起きを心がけましょう。
(3) 昼間日光を浴びて運動する
光は「セロトニン」の生成を促進します。また、運動によっても「セロトニン」が増えることがわかっています。
(4) トリプトファンを含む食べ物を食べる
「トリプトファン」を豊富に含む食品としては、牛乳、ハチミツ、大豆、バナナなどが知られています。したがって、ハチミツ入りのホットミルクをお休み前に飲むことをお勧めします。また、肝臓を温めるとトリプトファンの合成が盛んになることが知られているので、寝る前に右上腹部(右あばら骨が途切れる付近) を中心にを温湿布やカイロなどで温めるのも効果的です。
(5) メラトニンを含む食べ物を食べる
「メラトニン」はケールやブロッコリーなどアブラナ科の植物に豊冨に含まれています。夕方以降にケールの入った青汁を飲むのもよいでしょう。また、ハープの一種セントジョンズワートは、脳内の「セロトニン」の分解を抑えて脳内の濃度を上げ、沈静や催眠効果を発揮します。

<なぜ子供は眠くなると手が温かくなるの?>
ヒトは睡眠時に自律神経の支配が交感神経から副交感神経へと
バトンタッチされます。交感神経は"昼間の神経"とか"緊張の神経"と言われ日中活動期に優位になります。これに対して副交感神経は"夜の神経"とか"リラックスの神経"と言われ、日が暮れた後優位になり、瞳孔が収縮し、血圧や脈拍が低下して眠りにつく体制が整います。子供が眠くなると手が温かくなるのもそのためです。したがって、自律神経を副交感神経優位にする工夫をしてみまし
よう。

<眠るための工夫・その2>
(1) ぬるめのお風呂にゆったり入る
就寝の1 へ・2 時間前にぬるめのお風呂に入ってリラックスすると体温が適度に上昇し、副交感神経のスイッチが入りやすくなります。この時自分に合った香りの入浴剤やバスソルトを入れると更に効果的です。熱いお湯やシャワーは逆に交感神経のスイッチを入れることになりますので注意しましょう。

(2) 短い言葉で自己暗示にかける
日常のストレスで不安や心配事をかかえ、交感神経が高ぶってなかなか眠れない人がいます。その時には
-1.リラックスした姿勢で椅子に座ったり、布団の上にあぐらをかく。
-2.目を閉じてできるだけ体の力が抜けて行くことをイメージする。
-3.ゆったりと呼吸し、心の中で「私は大丈夫」「だんだん落ち着いてくる」などできるだけ短い言葉をゆっくり繰り返す。
-4.手や足先に意識を集中し、これらが重く温かくなったと感じられたら床につくといいでしょう。

(3) 香り(アロマ) をうまく利用する
5感のうち、視覚・聴覚・味覚・触覚の刺激は新しい脳(大脳皮質) を経由してから古い脳(大脳辺縁系) に達しますが、臭覚の刺激だけは大脳辺縁系に直行します。そのため沈静効果のあるハープの香りをうまく利用すると高ぶった神経を「リラックス」や「沈静」に導き催眠に大きな効果をあげることができます。
<例> サンダルウッド、カモミール、ラベンダー、ネロリ、ペルガモットのエッセンシャルオイルを単独あるいはブレンドでティッシュに数滴しみ込ませ枕元におく。またはティーカップに熱湯を入れ、その上に数滴たらして部屋に置くと更に効果的です。

(4) 自律神経を整える食べ物を摂る
ビタミンB12:あさり、大豆、いわし、レバー、牡煩、さんま
ナイアシン:たらこ、かつお、まぐろ、レバー、落花生

<寝る前に控えること>
タバコ、熱いお風呂、激しい運動 → 交感神経を刺激します。
カフェイン、パソコン、テレビ → 大脳の活動を刺激し、寝つきを悪くします。
深酒 → 適量の飲酒は寝つきをよくしますが、過量では睡眠の質が悪化するとともに、利尿効果により中途覚醒し睡眠が妨害されてしまいます。
 
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